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【悪魔通信】 第2章その最終回 「ゲンキノミナモト」
「正直なところ、俺はお前を心の底から悪い奴だとは思っていねぇ。屋敷をこんなにぼろぼろにする力を持っていても、正しい使い方を知らないだけのただの妖怪にしか思えない。けどな、だからと言って平和を望んでいる妖怪を力で言うことを聞かせていいだなんてことも微塵も思っちゃいねえ」
 桂一はさらに一歩前へ出る。牛鬼までは手を伸ばせば届いてしまいそうな距離だった。
「まだ、今ならまだ間に合う。もうやめろ。こんなこと」
 桂一のその声は、酷く落ち着いていた。そしてそれでいて重みがあり、牛鬼の心にしっかりと響く。
 だが、牛鬼はそれでも引き下がらなかった。
「今更、今更ワシに何ができると言うのだ……!貴様が言った通り、ここの妖怪共に迷惑をかけたと言うのなら、ワシがここで引き下がってしまえばたちまちそいつらの目の敵にされるであろう。結局力で支配したのならその力が無くなった瞬間に手のひらが返されることなど当たり前だ。そんなこと、とっくの前に気付いておる……」
「お前は、まだ俺らを信じられないか……?」
 視線を変えず、まっすぐ彼らは彼らの瞳を見つめている。
「無理もないかもしれない。まだお前に対して『大丈夫』だなんて保証してやれないし、その証拠もお前に見せることができない。口先だけの優しさなんて信用できない事も俺はよく分かる――

それでも、信じてくれ――!」

 その時、牛鬼の心内に変化が見られたのか、先ほどまで小刻みに震えながら呼吸を荒くしていたその様子が完全に無くなったのだ。
 牛鬼は周りを見渡し、そこに居合わせた妖怪全てに目を合わせる。その牛鬼の動きに身構える者、恐怖する者、敵意を向ける者など、さまざまいたが、ヒトツメ、ろくろっ首、お歯黒べっとり、濡れ女にいたっては何故か微笑を見せていた。
 その近くにいた水希には彼らの心境が全く理解できなかったが、桂一にはその理由が分かる。それもそのはず。彼が出会い、彼と交流をしたことのある妖怪だからこそ、その意味をしっかりと噛みしめることができる。
「お前に何をされたのか、そんなことは全く想像はできないけど、俺には何となく分かるんだ。昔からこの世界にお邪魔させてもらっていたからこそ妖怪の善悪が何となくな」
 牛鬼の耳に、桂一の声が届く。もう、牛鬼は何も反論しようなど思いもしなかった。むしろ、彼の話を聞こうと耳を傾けている程だった。
「すぐには、お前を受け入れられない奴もいるだろう。でも、それも時間の問題だ。妖怪にも、人間にも、『慣れ』っつう便利な機能があるからな」
 少しだけ、桂一の言っていることを信じてもいいのかもしれないと牛鬼は思い始めてきていた。もしかしたら、何も気にせずに生きていけるのかもしれないと……。
「そのためには、ワシは何をすればいいんだ。ワシには、分からんのだ。何をすれば、皆に愛されるような存在に成れるのかと……。ワシは、お前のような存在に憧れておった。だが、ワシの持っているこの力のせいで、皆ワシを見る度に恐怖の眼差しを浮かべてくる。うんざりじゃったんだ。こんな気持ちになることなど……」
「簡単だろ。そんなこと」
 桂一は、何も気にせずに、口を開く。
「笑ってればいいんだよ。笑顔が人を一番安心させるんだ。まあ、それが妖怪にとってはどう思えるのか俺は知らないが、それでも今までのお前よりかはずっとマシになるだろうよ」
 そう言って、桂一は笑顔を見せた。
「まぁ……それまではお前は『ぬらりひょん』の話し相手にでもなってくれや。そこで頭を冷やしておくんだよ。それで時間が経ったらまた戻ってこりゃいい。簡単だろ?」
 そう言った瞬間、一番反応したのは水希の方だった。
 自分がしていた約束を、いつの間にか桂一が果たしてくれた。そのことに少し妙な気分になる。
助けられたと言うか、何というのだろう……。
「ああ、その前にお前はこの屋敷の修理でもしてもらおうか。話はそれからだよ。嫌だなんて言わせねぇからな」
「………」
 桂一はそう言って水希の方を振り向き、そのまま立ち去ろうとする。
 それを、すぐさま牛鬼が引きとめた。
「待てっ!」
「…………何だ?」桂一は微笑を浮かべながら振り向く。
「……………貴様は、ワシが出会った中で一番の愚か者だ。それでいて、聖者だ」
 その言葉に、桂一はフッと鼻を鳴らして右手を上げた。
「その言葉、しっかりと覚えておくよ。じゃあな、牛鬼」
 それを最後に、桂一は彼らの前から去っていった。

     *

 それから、桂一と水希は屋敷内の妖怪たちの話を元に、先生の居場所を割り出して、桂一は先生の回収に向かい、水希はヒトツメを連れて彼の家に向かった。
 そこには、ずいぶんと元気になったミカリがいた。家を出るときとは全く別人のようなほど元気で活発な動きをする彼女に、水希は数分は呆気にとられていた。
 どうして元気になっていたのだと聞くと、彼女は自分の『みかり』と呼ばれる上着のような物を他の妖怪に貸していたようで、それがしばらく返されなかったことでだんだんと体の調子が悪くなっていっただけのようで、後でヒトツメに聞いたところによると、何かを体に身に付けている妖怪は、その物がしばらく体のそばから離れると力が弱まっていくことが結構な頻度であると言うことだった。
 つまり、水希はヒトツメの勘違いによってとても危険な目にあわされたと言うことだった。ヒトツメは何度も謝ってきたが、それでも完全に許すわけにはいかないと水希はひそかに思っていた。
 そして、人間側の世界に戻る時が訪れた――

「じゃあ、またこっちに戻ってくるからな」
 桂一は見送りに来てくれたヒトツメのボサボサの髪の毛を撫でてくしゃくしゃにしながら言った。
 すでに、先生は人間の世界に戻っていた。彼らの目の前にある、こちらの世界とあっちの世界につながる、空間にぽっかりと空いた穴に入ることで向こうに行けるらしいのだが、その時に少し細工してこっち側の記憶を完全に消さしている。
 ただ、水希と桂一は記憶が消えないようにしている。桂一はまだこちらの世界に戻ってくるからなのだが、水希は、自分から桂一に頼みこんだのだった。
「いつでも歓迎するよ。水希の方もたまには顔出してね」
「あ、ま、まあ……。暇な時に来ると……思うよ」
 水希は笑顔にならない笑いを向けながら言った。
「さて、さっさと行くか。未練があるのを思いつく前に」
「……そうだね」
 桂一の言葉につられて、水希は振り向き、穴に向かう。
 後ろで、ヒトツメが手を振っているような気がしたので、振り返らないまま手を上げて応答した。
 そして、穴の中に入る――。

 ――そこは、見慣れた職員室の中だった。いや、見慣れたと言ってもかなり時間が開いていたせいでずいぶんと久しぶりなような気もした。
 すでに桂一はパソコンの電源を落として腕に抱えていた。
 先生は、もう室内にはいなかった。
「戻って、来れたみたいだね……」
「まあな。もうこれでいつも通りの生活が送れるだろうよ」
 そとの景色を見ると、あっちに行く前の時間と殆ど変わらなかった。時間は変わってないらしい。と、いうことは今から家に帰ったとしても「こんなに遅くなってどこほっつき歩いていたの!」だなんて怒られなくて済む。
 それはありがたいのだが、どうしても、今桂一に伝えなければならない事があった。それはこっちに来るまでは全く思いもしなかったのだが、今なら何となく思うことがある。
「な、なぁ……。桂一」
「……ん?なんだ」
 桂一は何食わぬ顔で水希を見つめてきた。何を考えているのか分からないのだが、それでも今、言わなければならないだろうと思って、水希は口を開く。
「次にアンタがあっちに行く時……、その……私も連れてってくれないか?」
 桂一は、特に驚いた様子も見せなかった。いつも通りの彼の無表情。
「……もちろんだ。妖怪たちに、お前の元気を与えてやってくれ」
それでも、少しだけ、優しさが感じられたのは私の気のせいじゃ無かった。

――おわり
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【悪魔通信】 第2章その56 「ゲンキノミナモト」
 無かった。
 牛鬼の振り下ろされた腕は空中で制止し、ヒトツメに傷一つ付かない。
 ただ、ヒトツメは一瞬遅れてそれに気付く。身をこわばらせて目を閉じていたせいなのだが、次第に瞳が開いて行くと目の前の光景に驚愕した。
 空中で制止した牛鬼の腕は、それの大きさをうわまわるかような巨大な人骨が止めていたのだ。いや、ヒトツメにはそれの正体はすぐに分かった。牛鬼よりも巨大で、人骨で出来た体を持ち合わせている妖怪。
「が、『がしゃどくろ』!」
 ヒトツメはすぐに後ろを振り向くと、そこには屋敷の大きささえ凌駕するかのような真っ白な人骨が佇んでいた。牛鬼が桂一を消したときにつくった城壁の崩壊した後から腕が伸び、しっかりと牛鬼を固定している。
「な、なんでキミがこんなところに……。普段はその辺でうろうろしているようなキミが目的を持って動くだなんて……」
 ヒトツメが驚きながらそう言うと、がしゃどくろは体を震わせて肯定の意思を見せる。そして首を少しだけ右に向けた。
 ヒトツメもそれにつられるようにそちら側へ視線を向けると、今度は彼の見慣れない物が水希のすぐ前にいた。
 川にでも落ちたかのようなほど体中がびしょぬれで、髪の毛は長く赤い着物を着ている女性の姿だった。その出で立ちをみてすぐさま彼女は妖怪だと理解したが、それ以上の事は何も分からなかった。
 ただ、水希に害を及ぼしたかわけではなさそうで、むしろ牛鬼の攻撃の流れ弾に当たらないように水希をかばっているように見えた。
「き、キミは……」「なぜ、貴様がそこにいる……!」
 ヒトツメが驚愕の声を漏らすと同時に、牛鬼も憤怒の声を上げていた。
 牛鬼の知り合い、それでいて水希をかばっていると言うことは彼女も牛鬼の事をよく思わない妖怪の一人だと言うことだろう。だとしたら、彼女はなぜわざわざヤバい相手だと知っている牛鬼の前に立っているのだろうか。
「あ、危ないから、早く逃げた方がいいよ……!」
 ヒトツメの声に、びしょぬれの妖怪は彼をチラと見てから一言。
「お前は黙っていろ」
「な!?……なんでそんなこと……」
「私、『濡れ女』はお前と話に来たわけじゃない。牛鬼さまとお話に参っただけだ」
「う、牛鬼……さまぁ?」
 ヒトツメは再び驚きの表情を見せる。牛鬼を様付けすると言うことはそれだけ牛鬼に忠誠を誓っていると言うことのはず。ならば余計に疑問が残る。
 どうして、牛鬼に忠誠を誓ったはずの妖怪がいかにも牛鬼にはむかう様な空気の中に飛び込んでくるのかということを。
「……ふん、ワシに話……とな?」
 牛鬼は何食わぬ顔で掴まれた腕を軽く払ってがしゃどくろの拘束を解く。その衝撃でがしゃどくろの右腕が引きちぎられ、ぼろぼろに崩れていく。
「一体どういうつもりなんだ?その様子だと城の崩壊の音に反応してワシの様子を見に来たわけじゃなさそうだが……?」
 そう言って牛鬼は彼女を睨むが、全く動じない。いかにも慣れていると言ったような表情でその表情からは何も感じさせない。
「崩壊の音に反応したとおっしゃったところは間違いございません。ですがそれ以外は牛鬼さまのお考えの中には全く無い様な事であります」
「ほう?では聞かせてもらおうか?……良い様によってはあの人間のように消してやるが」
「それでも構いございません。私は貴方様にお伝えしなければならない事があるのです。それは、『この屋敷に居座っている妖怪のほとんどが貴方様に敵意を示している』ということです」
「…………」一瞬、牛鬼の顔がゆがむ。
「皆口をそろえておっしゃっていました。「今の暮らしに満足していない」と。これはつまり貴方様に心の中では反抗していると言うことです」
 濡れ女は一呼吸置く。そして、意を決して重みのある声を出す。
「実の所、私も、その例外ではございません……」
「………」
濡れ女のその言葉に、牛鬼の体の動きが止まる。
 牛鬼のその行動に、ヒトツメは警戒心を強めるが、それとは対照的に濡れ女は身を震わせた。牛鬼の側近として勤めてきた彼女だからこそ分かる牛鬼の細かいそぶりに反応しているのだ。
「…………なぜ、なぜ貴様もワシを裏切るのだ!」
「申し訳ありません!……ですが、私も最近思うのです。少しばかり牛鬼さまはやりすぎる所があるのではないか……と」
「それを裏切りというのだ!」
 すぐに牛鬼が腕を振りかざす。がしゃどくろが再びそれを受け止めた。
 今度は先ほどよりもがしゃどくろの腕の力が強く、そう簡単には離れない。
「ぐっ、今度はなんだ!貴様もこいつらの味方をするとでも言うのか!」
「そういうわけじゃねぇよ」
 がしゃどくろに向けた牛鬼の言葉に反応して言葉が返ってくる。ただ、がしゃどくろは骸骨であり、言葉を話すどころか声帯すらないのだから、言葉を話すわけがないのだ。
 ならば、なぜそのがしゃどくろから人語が出るのだろうか……。
 答えは簡単、そこに人間がいるからだった。
「なぜ、貴様が生きている……!」
 そこにいたのは、桂一だった。
桂一が、がしゃどくろの肩に座って牛鬼を見下ろしているのだ。
「よく考えてみろよ。流石の牛鬼さまにぶんなぐられたって跡形もないほど消し飛ぶなんてありえない。せめて肉片くらいは残っているものだろ?」
「あ、あの時確かに貴様の体に直撃したはず……だが」
「あの瞬間、ほんの少しだけ前傾してお前の腕の間をすり抜けたんだよ。まぁ、床の崩壊には流石に反応できずにそのまま落ちて言ったんだけどな。んで、その時にそこの濡れ女の上にたまたま落っこちたんだよ」
 桂一は何食わぬ顔で濡れ女を指さす。一瞬彼女はたじろいだが、それを気にせずに桂一は続けた。
「それで事情を適当に説明したら今度はちょっと聞きなれない音がするじゃねぇか。偶然の一致ってあるんだろう。がしゃどくろが俺らの前に現れたんだよ。なんかずいぶんと人懐っこい感じで俺らに寄り添ってくるからちょっと頼んでみたらすぐさま了承してくれたよ。牛鬼に交渉するから手伝ってくれないかってな。それで今にいたるって訳」
「な、なるほど……」「そういうことだったのね……」
 ヒトツメと水希は双方で納得したように簡単の声を上げる。
 しかし、牛鬼の方は納得していないようで、
「ならばなぜ貴様は再びワシの前に現れるんだ!そのまま逃げていれば再び殺されずに済むだというのに……!」
 牛鬼のその言葉に、桂一はピクリと眉毛を動かした。
「ほう、そりゃあお心づかい結構なことだね。けど、なんで俺は殺されなきゃならないんだ?俺はただ交渉しに来ただけだってのに」
「貴様はワシの障害となる存在だ!障害は消さねばならん!」
「だったらテメェは俺ら側全員の障害だな!」
 牛鬼の言葉にかぶせるように桂一は感情に身を任せて叫んだ。
「どうだ?テメェは一人で一体何人の妖怪を敵に回していると思ってるんだよ。十?ニ十?そんなもんじゃないぞ。もっとひどい数の妖怪の迷惑を被ってるんだよ。それがわかんねぇなんて子供と大してかわんねぇな!」
 がしゃどくろの肩から物の数秒で屋敷に降り立ち、牛鬼の前に立つ。
「自分の力を示して、力で全てを支配して、それで上っ面の忠誠を誓わせてお前はでけえ顔をたたいてやがる。本っ当につまんねぇ奴だよ!お前は!」
 桂一は、さらに握りこぶしに力を込めながら言葉を続ける。

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【悪魔通信】 第2章その55 「ゲンキノミナモト」
 それは、爆発音にも似た響きだった。
 それは、地震にも似た衝撃だった。
 牛鬼から放たれた右手は屋敷の床を粉砕し、下の階にまでその衝撃は伝わっていた。
 そこの空間には何も存在してなかったような虚無感を感じさせ、それと同時にその空間をつくった牛鬼が飛んでもない力を持っていると言うことを示していた。
 当然、桂一の姿は無い。
「お、おい……なんで……」
 水希の口から、声が漏れる。何度も何度もそこを確認するが、何もなかった。
「ふ、ふざけんなよ……どこかにいるんだろ?おい、なぁって!」
 音のない、静かな空間で水希の声が響く。
「なんとかするって言ったんじゃないのかよ!桂一ぃ!」
 刹那、水希から重力の感覚が消え去った。体が宙に舞い、先ほどまでいた位置とはずいぶんとかけ離れた場所に飛ばされた。
 体を床に打ちつけて軽く悶絶するが、その感覚を与えた原因を探るように周りを見渡す。
 そこにいたのは、ヒトツメだった。彼が水希の体を持ち上げ、投げ飛ばしていたのだ。
「……できる限り逃げて。今ここにいちゃまずい……」
 彼は水希に優しくほほ笑みかけ、すぐさま振り返る。
 ヒトツメは、水希と牛鬼の間に、まるで彼女をかばうようにして立っていた。つまり、彼の目の前には桂一を亡き者にした牛鬼がいるのだ。
「はじめまして……でいいのかな?僕は一応キミとは初めて合う相手だからね」
「……………貴様は何者だ。ワシの記憶では眼球が一つだけの妖怪は全く知らないのだが」
 牛鬼は口を開きながらも、自分の右腕に少しずつ力を込める。
「僕にも敵対はするんだね」ヒトツメはそれを見逃さなかった。
「一応僕もキミたちと同じ妖怪なんだけどね。そのおかげでこの屋敷の妖怪は皆一応命だけは助かっているわけだし」
「……何が言いたい」
 牛鬼の重たく、静かな声がヒトツメの耳に届く。それでも、彼はひるむことは無い。
「僕だけでも命だけは助けてもらえないかなぁって思ってね。別にかまわないでしょ?キミを裏切らなければいいんだからさぁ」
「………」
「要するに、キミの事をよく思っていない妖怪は本当にいるってことだよ。キミが急にこの屋敷に来て、この屋敷を陣取って、今までどれだけの妖怪がここに住んでいたと思う?そして、その中で本当にキミに忠誠を誓ったのは一体どれほどいるだろうね?」
「貴様も……それを言うか!」
「何度だって言ってやるよ!キミはこの屋敷にいるべきではないんだ!」
 間髪いれずにヒトツメは怒鳴り散らす。その姿は、水希ならまだしも牛鬼でさえも圧倒するほどの怒りがあらわになっていた。
「妖怪が人間を襲ってはいけないだなんて言わない!でも、だからと言って殺していい理由にはならない!桂一を、桂一を殺す必要だって、なかったはずなのに………。キミは、僕の友達を殺したんだよ!」
 言葉が口から放たれていくたびに、心に秘めていた思いがあふれるように彼の頬には涙が伝っていく。
「ここにいる妖怪は皆親切な、すごい良い妖怪ばかりいるんだ。人を驚かすだけじゃ無い、他の楽しみを見つけて、それに没頭できる妖怪がたくさんいる。それなのに、キミは、キミのその行動は彼らのそんな気持ちを否定して、そこに何が生まれるっていうんだ!」
「………」
 牛鬼は、うなだれるように顔を下に向けている。自分の行動を反省しているのだろうか。それとも……。
「ワシは、ここにいる妖怪が妖怪であることを忘れているのだと思っていた。だから妖怪がどのような存在であるのかを自覚させるためにこの屋敷をワシの居城にしたんだ」
 ヒトツメは、牛鬼の言葉に耳を傾けながらも彼を睨み続けていた。警戒を解くつもりは微塵もない。信用など、何もできない。
「それでも、まだ貴様のような妖怪がいるのなら、ワシはワシであることを止めない」
 牛鬼の右手が高くあげられた。それが振り下ろされた瞬間、一瞬にしてヒトツメも亡き者にされるだろう。
「貴様は、不要なのだぁ!」
 そして、振り下ろされ……

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【悪魔通信】 第2章その54 「ゲンキノミナモト」
「………なぜ、人間がここにいるのだ?」
 桂一と水希、そしてヒトツメの三人は牛鬼がいると言われていた大広間に来ていた。
 大広間というくらいだからそれはかなりの大きさのある部屋であり、ただでさえ人間の十倍以上ある大きさの牛鬼が十体は入りそうなほどの広さがあり、足元は全て畳みが敷き詰められており、所々にシミが見られる所から宴会場として使われていたのだろう。
「………」「………」
 ヒトツメ、水希の二人はその牛鬼のあまりの巨大さに圧倒され言葉が出ないでいた。妖怪に耐性のない水希にいたってはすでに失神手前までたどり着いていた。
 そんな中、桂一だけは大してひるむことなく、牛鬼を見つめていた。
「アンタ等が勝手にこっちに連れてきたんだろ?だったら別にここにいたって不思議じゃないと思うが」
「ワシはそんな屁理屈を聞きたいのではない!この場に何しに来たんだと聞いておる!」
「ひゃあ!」
 牛鬼が声を荒らげると同時に、悲鳴にもならない声をあげて水希は腰が抜けたようにその場にへたり込んでしまった。ヒトツメも肩をこわばらせて動かなくなる。
「相変わらず妖怪のお偉いさん方は沸点が低いんだな」
 桂一は皮肉ったような言い方をして、軽く鼻で笑う。
「とりあえず俺の望みはこの屋敷から出ていくことだな。俺もお前も」
「……どういうつもりだ?お前だけならまだしも、ワシまでこの屋敷から出ていくとな?」
「ああ。アンタがここに来たせいで迷惑がっている妖怪も結構いるんでな。そいつらの為にもアンタは別のやぐらでも探してくれってこと。いきなりあいつらの生活環境を変えてアンタは知らんぷりってのも可哀想だと思うんだがな」
「………」
 牛鬼は急に口を開かなくなり、ただ桂一を見つめるだけになった。
 しかし、桂一も別に他に言うことは無くなり、牛鬼と同じく相手の表情を観察し始める。
 不思議なのは、桂一がほんの少し前まで牛鬼は恐ろしい相手だと言っていたはずなのに、その牛鬼に対してここまで冷静に、軽い皮肉も交えながら淡々と話せることだった。
 すでに水希とヒトツメは彼らの会話など耳に入っておらず、彼らが今現在どうして黙りこくってにらみ合っているのかが分からなかった。
 やがて、桂一が口を開く。
「まあ、そりゃあいきなり出ていけとか言われてもそれを聞いてはいわかりましただなんて言えるわけないと思う。現に結構ここに住み着いているみたいだしこの屋敷にも愛着があるんだろ?……でも、いつまでも他の妖怪に迷惑かけるわけにもいかないだろ。お前がここの城主みたいになっているからこんなことになっているんだ。それくらい分かるだ――」
「だまれぇ!」
 先ほどの声よりもさらに感情の増した牛鬼の怒号が大広間に、いや屋敷全体に響いた。
「ワシが聞き役に回っていたら好き勝手に言いおって!ワシがここにいるのが迷惑だから出ていけ?ふざけるな!ここはワシの城だ!ワシが手に入れた物だ!それをどんなふうに扱ったってなんら差支えなかろう!」
 牛鬼が一歩前に出る。桂一はそれに合わせて一歩下がる。
「それとも何か!貴様がここに変わる新しい場所を提供するとでも言うのか?」
 牛鬼がさらにもう二歩前に出る。桂一は次は四歩程下がった。
 すでに牛鬼は水希たちなど眼中になく桂一たった一人に照準を合わせるかのように視界の真ん中に彼を置いていた。
「いや、例え貴様が新しい場所を申したとしても、ワシはここを出ていく気などないわ!」
 そして、牛鬼は右手を振りかざす。
「人間ごときに指図されるほど落ちぶれてなどおらんわぁ!」
 振りかざした右手が、桂一目掛けて振り下ろされた。

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【悪魔通信】 第2章その53 「ゲンキノミナモト」
 桂一はその後水希を引き連れたまま提灯の小さな明かりのみで何とか道を把握しつつ屋敷の一番上を目指す。
 未だに外は太陽が出る気配はなく、どこまでも深い闇が空を包み、星明かりが出る隙間も与えないほど何処までも無を桂一たちに見せていた。月明かりでさえも、しっかりと目で存在を確認しないと忘れてしまいそうだった。
「ち、ちょっと、ちょっと待ってよ!」
 牛鬼に会うことでいっぱいだった桂一の耳に水希の叫びが響き、一瞬で素の桂一が戻ってきて、そこで立ち止まって振り返る。
 水希は、ほんの少しだけ息が上がっているように見えた。それも仕方がない。全く何処に向かうかも分からない相手に引っ張られて自分のリズムもつかめないまま無理矢理動かされたのなら誰だって息くらいは切れるものだ。
「あ、あんたさっき言ってたよね?その、牛鬼って奴、かなりヤバいんだろ?なのになんでわざわざ自分で行くのかまだ聞いてないよ」
「………」
 桂一は表情のない顔で水希を見つめたまま仁王立ちになっている。
 でも、思考はしっかりと働いている。自分の理由を伝えるべきか否か。
 数分前までは桂一はしっかりと牛鬼がどんな妖怪なのかを事細かに説明していた。しっかりと腕を持って引き連れながら、一字一句間違えずに簡潔に述べた、つもりだった。
 だから水希にもとりあえずはどのくらいの脅威があるのかはしっかりと理解してもらっているようだから、水希は桂一にわざわざ引きとめるような言葉をかける。
 多分、水希は怖いんだろう。どうあがいたって力で勝てない相手に、この屋敷にいた妖怪全員を存在だけで従えた牛鬼に対して抗議をするということは、人間で言う喧嘩を売る行為と同義だと言うことを彼女は理解しているからこそ、恐れをなしている。
 それは桂一だって同じだった。表に出さないだけで内心では水希よりも恐怖心の度合いは高いのには自信がある。大体の妖怪の事を知っているからこそ、桂一も怖がっている。
 だが、そんな事を言っていたって仕方がないのも十分分かっていた。自分たちはこの世界から抜け出さなくてはならない。それが第一の目的なのだから。
 そのとき、後ろの方で桂一たちを追っていたヒトツメが口を開いた。
「けーいちって、そんな顔するんだ」
「………は?」
「いや、だからけーいちのそんな表情を見るのは初めてだからさ。前に来たときってもうずっと目を輝かせて笑ってばっかだったから珍しいなぁって思って」
 ヒトツメはその時の桂一の真似事でもするかのように笑顔を彼らに向けていた。彼の欠けた歯がむき出しになっているおかげで無邪気さが一層増している気がする。
「……もう結構昔のことだからな。殆ど覚えてないよ」
「でも、あのときのけーいちは楽しそうだったよ?今何に悩んでいるのか僕にはよく分からないけど、それでもけーいちらしくないって思うんだよ。あのときのキミなら、なんでもできそうに思えて不思議な人間だと思ったけど、今はどうなんだろう……」
 演技なのか、それとも本気なのか。ヒトツメは今までにない全く別の雰囲気を醸し出していた。歳相応の純粋な心をむき出しにして、何のためらいもなく思った事をすらすらと述べているヒトツメは、まさに人間の子供に酷似していた。
「俺は、そんなこと……」

「大丈夫!なんとかなるって!」

 刹那、桂一の心の内で何かがうごめく気配がした。
 忘れていた幼いころの記憶が少しずつ思いだしていけるように、心の中で染まっていた負の感情が内側から全く逆の感情に変わっていく。
 気付いた時には、特に意識もしてないのに勝手に口が開いていた。
「……懐かしいな。ただ見るものすべてに感動していた俺には怖いものなんてなかったんだからなぁ。今の俺だって珍しい物に感動する心持はあるはずなのに、その事を忘れていたみたいだ」
 桂一はヒトツメと視線を同じにするように少しかがみ、彼の頭に手を置いた。
「もっと、楽しまなきゃな………」

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