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【悪魔通信】 第1話その4  「悪魔通信ってなに?」
「桂一、アンタにしちゃ結構パソコンを死守しようとしてたよな。一体何があったんだよ」
 水希は、桂一の援護があり、数十分の格闘の末、ようやく反省文と言う強敵を打ち滅ぼしてきた。
 その帰り、学校の廊下はずいぶんと静かなもので、彼らの足音以外に、音は廊下中にはほとんどなかった。もう部活の終了時刻を過ぎていたため、そのまま桂一と一緒に帰ることにしている。別に一人で帰ることも出来たが、せっかく桂一が近くにいるから、何か積もる話でもしておこうと思ってのことだった。
「・・・あの教師がパソコンを持って行くだけなら、俺はそこまで止めはしなかったよ。でも、あれはまだ電源が付いているんだ」
「それに何の問題があるって言うんだよ。もしかしてあれか?充電が切れてデータが吹っ飛ぶのが心配だとか」
「いや、その程度で済めばいいけど」
「?」
 水希は、桂一の言わんとしている事を察する事はできなかった。彼が頭の中で思い描いているモノを隣でいるのにも関わらず感じることすらできない。少しだけ悔しいような気がした。
 階段にたどり着く。先ほどまでいたのは、校舎の三階だから、ここから二階分下りれば、すぐ目の前が下駄箱になる。
 水希はさっさと降りて帰ろうと思ったが、隣にいる桂一がなかなか歩を進めようとしない。
「どうした、帰らないのか?」
 桂一は、彼女の声を聞くが、しかし動こうとはしなかった。
 水希は歩を進め、再び振り返った。それでも動こうとしない、階段の下から見る彼からは、何か別のものを感じた。特に夜が近づいている今、一番の違和感を感じていたんだと思う。
(カッコ良くなった?いや違う。
 優しく見える?そんなことない。
 泣きだしそう?んなバカな。
 じゃあなんだ。この胸の中を掻き乱れさせる違和感は)
 恐怖・・・一番近い感情の様な気がした。
「悪い、先に帰ってくれ。やっぱり気になる」
 桂一はそう言って体の向きを変える。そして、一瞬にして彼女の視界から消えていった。
 彼の立っていた場所の右手には渡り廊下があり、そこを行くと丁度職員室のある階につながる。彼はそこへ行くつもりだった。
「おい!待てよ」
 水希も急いで階段を駆け上がり、そのまま左へ曲がる。向こう側の校舎にすでに桂一はいた。走るのは案外早いようだ。
(あいつは一体何を知っている?何を隠そうとしてるんだよ!)
 水希の頭の中には、桂一の目に映っているものを必死で探すことしかなかった。
 彼らは走った。廊下は桂一と水希の足音で埋まっていく。
 渡り廊下を抜け、右に曲がると、そこに桂一がいた。扉の前に立って両膝をついている。呼吸も乱れているようだった。
廊下に漏れてくる光を見ると、室内はまだ電気は付いていたらしい。しかし、人が少ないのか、あまり物音がする気配がなかった。自分の呼吸音の方が室内よりも大きいんじゃないかと思えるほどだった。
「なあ、いい加減教えてくれてもいいんじゃないのか?私だって知る権利くらいあるだろ」
 乱れる呼吸の中で、桂一に尋ねる。彼はまだ職員室のドアを睨みながら、両ひざに手を乗せていた。
「・・・『悪魔通信』・・・できるだけ人には・・・教えたくないサイトだったけど、お前が・・・想像しているよりも・・・、酷いものが、そこにはある。・・・それでも知りたいのか?」
「そ、そりゃあ、知りた」

「後悔する事になるぞ」

 桂一の表情は、顔を伏せているせいでよく分からなかったが、声だけで何となく理解する事ができた。
(コイツ、本気で私に警告しているのか?)
 水希はさっきまで、桂一の言っていたことは単なる悪ふざけだろうとたかをくくっていた。どうせ彼の何かの妄想のたまものなんだろうと、心の中でバカにしている所があった。ただの興味本位で桂一についてきただけだった。
 しかし、彼は悪ふざけなんかじゃなかった。大真面目だった。
 何も嘘をついているつもりもなかったし、人をだますつもりもない。彼の口から出ているのは全て彼の本音なのだ。
「・・・チッ」
 この舌打ちは、他人に向けたものじゃない。自分自身を戒めるために、自分に向けたものだった。

 ガタンッ!ガタガタガタ!
「うわああああああああああああああ!」

 突然、教室の中から大きな物音がし始めた。それと同時に、男性の大声が響く。声色からして、これはあのゴリラ先生の声だった。
「マズイ!」
 先に手を出したのは桂一の方だった。彼は目の前の扉に手をかけ、勢いよく開けた。室内から光が漏れてきて、その強い光が廊下をほんの少しだけ明るくしてくれた。
 水希はその光のせいで目の中に残像ができてしまったが、桂一はお構いなしで職寝室の中に入っていった。水希も軽く目を押さえながら中に入る。
 水希は、愕然とした。
 物音がしたはずなのに、室内に誰もいないのだ。
 あるのは、職員用の机が幾つも並んでいるのと、その中の一つの机の上に開かれたパソコンが一台のみ、置かれていただけだった。
 まぎれもなくそれは桂一のパソコンだった。
「・・・遅かったな」桂一はつぶやく。そして、自分のパソコンが置かれている机まで歩いて向かう。水希も、歯を噛みしめながら彼の後をついていく。
「一体、これはどういうことなんだよ。あのクソ教師の声が中から聞こえたはずだろ!なのに、なんで誰もいないんだよ」
「じゃあ、考えてみろよ」
 桂一は、歩きながら無機質な言葉を発する。
「この職員室に、今まで無かったものが一つだけあるだろ。原因はそれしか考えられない」
 桂一のパソコンの前まで来た。その机には〝剛丈〟と書かれたシールが貼られていた。机の上は案外綺麗に片づけられており、本棚に教科書類が入れられている以外は、何もなかった。おそらく机の引き出しの中に大体のものが入れられているんだろう。
 パソコンは画面が開かれており、その画面には見覚えのある真っ黒の掲示板サイトが表示されていた。
「・・・『悪魔通信』、俺もこれはただの掲示板サイトだと思っていた。よくあるホラーサイトだと」
「これは、違うって言うの・・・?」
 桂一は、静かに頷いた。
「ある日、このサイトの噂話が何処からか発生したんだ。『悪魔通信』は、どうやら妖怪が住み着いた世界とつながるらしい」
「妖怪?」
 最近じゃ滅多に聞かなくなった単語ゆえに、妙な新鮮さもあった。
「妖怪って言ったら、〝ろくろっ首〟とか、〝のっぺらぼう〟とか、そんな感じのやつ?」
「・・・まあ、そうとらえてくれても差し支えないと思う。ただ、その程度の量じゃないことくらいは知っておけよ」
 桂一はそう言ってマウスに手を伸ばし、キーボードに何かを打ち込み始めた。水希からしたら、何をしているのかさっぱり分からなかった。
 そんな事をしながら、桂一は話を続ける。
「でだ。最近その世界に入り込む方法を見つけたんだよ。『悪魔通信』の適当なページで、URLに合い言葉を打ち込むんだ。そしてエンターを押す。教師にパソコンを奪われたときは、合い言葉を打ち込むまで完了していたんだよ。そしたらこのありさまだ」
 彼は、顔をあげた。入力し終わったのか少し確認したくて、水希は画面に顔を近づける。
(・・・なんじゃこりゃ)
 しかし、URLに書かれていた言葉はとんでもない量の文字の羅列で、逆にどうして彼はこんなことを知ることができたのか疑問に思った。
「それでだ。水希はどうする?」
 彼女は顔をあげた。彼女の視界の中に入っている桂一は、何かを悟っている表情を見せていた。
 腕を組み、教師用の机に体重をかけているが、不思議と偉そうにしているようには見えなかった。
「どうするって、何が?」
「俺の予想だと、消えた教師は、多分向こう側の世界に行っているはずだ。俺は何度か訪れた事があるから割と安全なんだが、水希やあの教師はそんなこと無い。だから、お前をつれていくと危険な目に遭うことは覚悟してもらうことになるが・・・」
 桂一はため息をつきながら、一呼吸置いた。
「こんなこと見た手前、引くに引けない状況になっているのも確かだ。だから、お前に確認を取っておきたい」
 桂一の問いを聞きながら、彼女はほんの数分前に言った彼の言葉を思い出していた。

『後悔する事になるぞ』

(ふざけんな。何が後悔するだ。そんなことするくらいだったら、もうとっくの前にしているわ)
「別にかまわないよ。妖ってのも、一度でいいから見ておきたいと思っていたしね」
(まあ、そんなことは無いけど。でも、やっぱりあのゴリラ、罵ってた相手だととしてもバカにはできない相手だしさ。一応世話にもなってるし・・・・・・)
 水希の言葉に、桂一はほんの少しだけ微笑んで見せた。
「どうなったとしても、俺は一切責任を取らないからな」
 桂一は、エンターキーに手を伸ばした。

 タンッ!

 その音と同時に、彼らはこの世から姿を消した。

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【悪魔通信】 第1話その3  「悪魔通信ってなに?
 吹き飛ばした桂一をよそに、水希は目の前に広がっているパソコンの画面を凝視している。
そこには、真っ黒な背景に、何十人もの書き込みがあり、どうやらそれは会話のようにして繋がっていた。文字は白色で表示してあるおかげで、何が書かれているのかは見やすくなっている。
「な、何これ。掲示板か何か?」
 水希は椅子に座っている桂一に聞いた。彼は頭に手を押さえて、何かブツブツつぶやいている。
「なあ!桂一!」
 我慢できずに、水希は声を荒らげてしまった。彼も、その声に少し肩をふるわせつつも、彼女の方に顔を向けた。ただ、目が半開きなのは相変わらずである。
「・・・『悪魔通信』これがそのページの名前」
「あ、『悪魔通信』?えらく大層な名前だけど・・・」水希は頭の中で言葉を選ぶ。「何をする場所なの?」
「別に、見たまんまだよ。どこかの誰かさんが、この掲示板に書き込みをして、その書き込みを見た他の誰かさんが、さらに話を展開していくっていう、よくある掲示板」
「・・・私はそう言うことが聞きたいんじゃなくて、掲示板って言っても、何かテーマがあってやっていくものでしょ?このページじゃあ何のテーマで進ませているのって私は聞いてるの」
 水希がそう言ってから、数秒後に自分の口調が荒くなっていたことに気が付いた。自分ではそんなつもりはないのに、彼に強く当たっているように感じられてないか少しだけ心配になる。
 だが、桂一の方はそんなこと全く気にすることなく、水希の問いに答える。
「まあ、自分の知っている〝都市伝説〟でも披露して行こうってとこじゃないかな。俺には、その程度だと思ってるけど」
 彼女は、ふーんと軽く鼻を鳴らしながら画面を見る。確かに、水希の耳にも入ったことのあるワードもあれば、逆に全く聞いたこともない事まで書かれている。
「それで、アンタはここで書き込みをしていたって訳か」
「まあ、間違いは無い」
「間違い・・・『は』?」
「別に気にしなくていいよ。水希には関係のないことだ」
 彼女は、再びふーんと鼻を鳴らした。初めから、桂一の話は殆ど半信半疑で聞いていたせいで、彼の事よりも、この掲示板に書かれていることの方が、よっぽど興味があった。
(百聞は一見にしかずって、この事かな)
 そんな事を考える自分があほらしく思えた。
「でもさ、こう言うことして、教師に見つかったりとかしないわけ?」
 水希が桂一の方に振り向く。桂一は水希よりも廊下側にいるおかげで、彼は真後ろの廊下が見えていない。

 しかし、水希には見えた。はっきりと。

 剛丈忠正(ごうじょうただまさ)もといゴリラ先生が、上のガラス窓から教室の中を覗いていることを・・・。
「ご、ゴリラ!何しに来た!」
「分かっておろうが!貴様らが不正でも働いておるんじゃないかと身周りに来ただけだ!」
 彼がゴリラ先生と呼ばれるゆえんは、おもに顔つきにあった。自分の髪型とほとんど同じ黒い肌を年中持ち、唇はかなり厚い。掘りが深いせいで目つきも悪く、第一印象でほとんどの人が『怖い人物』と思われても仕方なさそうな顔である。
 そのゴリラ先生が、教室の中に入ってきた。もう、逃げ場は無い。
「それが何だ、パソコンなんか持ち込みおって!何かふさわしくないものでも見ておったんじゃないだろうな!」
(ゴリラ、あんた私と同じ思考回路を持っているようだな・・・)
 水希は、そのことに妙な親近感と、嫌悪感を感じた。
「もう、こいつは没収だな!中身はなんであれ、学校に持ってくる物くらいわきまえておけ!」
 ゴリラ先生は、真っ白なタンクトップを着ているせいで、真っ黒に焼けたそのあふれんばかりの筋肉を私たちに見せつけながら、ノートパソコンの画面を閉じた。
(タンクトップにクリーム色の長ズボンって、どこのファッションだよ。こいつもセンスねーな)
 ふと、そんな事が頭の片隅によぎった。事の重大さがどうやら水希には分かってないらしい。
 そのことに気付いた瞬間には、桂一は動いていた。
「ダメだ、そいつは持って行っちゃいけない・・・。返してくれ」
 桂一は自分の思いを必死に伝えようとしているらしいが、彼の安定した声は、思いを伝えるにはあまりにも弱すぎた。
 特に、目の前のゴリラ先生に至っては、彼の声が届いていないらしい。
「早く反省文書けよ!お前らは遅刻したという自覚がなさそうだからな!・・・特に水希!」
「・・・はい?私がなんだよ」彼女は彼らの様子を冷めた目で見ているせいで、自分に振られるとは思っていなかった。
「お前は部活の朝練もさぼったらしいじゃないか。え?どーなんだ?」
(・・・どーなんだと言われても、私に何を言わせたいんだよ。この筋肉バカ教師が)
 頭の中ではとことん軽蔑視しても、それを声には出さなかった。
「はいはい。どーもすいませんね」
「〝はい〟は一回でいい!」
「・・・・・・」
(どこの時代の説教だよ)
 この事だけは、桂一と考えが一致する自信があった。

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【悪魔通信】 第1話その2  「悪魔通信ってなに?」
「ったく、なんで私がこんなことしなくちゃならないのよ」
 水希と桂一は遅刻した罰として、居残りで反省文を書かされていた。
 教室には彼ら以外人はおらず、そのほとんど全員は部活の方に向かっていることだろう。
 当然、水希にやる気など全く無く、手持ち無沙汰でペン回しをしながら、空の様子を教室の窓から眺めていた。
 もう夕方近く、空は赤く染まっており、時折り視界の端から流れてくるカラスが、何となく羨ましく思えた。
(私もあんな風に自由に生きていけたらいいのにさ、全く人間ってめんどくさい生き物だよね)
 空のカラスに向かって言ったつもりだったが、そいつらは水希のことなど目もくれず、そのまま過ぎ去っていく。
「・・・チッ」
 カラスにそんな事をいったところで、どうしようもないことは十分に分かっているつもりだった。しかし、それでも何も反応してくれないのは、少しさびしく思える。
 水希は、仕方なく自分の真横にいる桂一に目をやった。
 彼はすでに反省文など書き終わったようで、机の上に筆記用具や、原稿用紙は置かれていなかった。
 代わりに、学校の教室では見慣れないものが、彼女の目にとまった。
「桂一、何やってんの?」
 ノートパソコンだった。
表面が真っ黒でB5のコピー用紙ほどのサイズしかない、とても小さなものだった。手入れはされているようで、汚れが目立ちやすいはずの黒のなのに、そのパソコンの表面は傷なんか全く付いておらず、まるで新品をたったいま取り出して使っているのかと思えた。
(確か、今朝もパソコンやってて立ち止まっていたよね。なにをそんなに気になることでもあるんだろう)
 桂一は水希の言葉に答えることなく、視線も変えないまま、その画面に向かっていた。
(さては、何かいやらしいサイトでも開いているのかな・・・?)
 水希は、根も葉もない仮定を、勝手に頭の中に立て、どうしてもそれを確かめずには居られなくなった。
 ただの好奇心というやつである。ただ、彼女の場合はタチの悪いものに当たるが・・・。
(前々から気にはなっていたんだよね~。年頃の男子ってどんなものに興味があるのかって事をさ)
 もちろん、彼女はすぐに実行した。
「ねえ、もう一度聞くけどさ、さっきから何してんの?」
 さすがの彼も、二度目のときは反応を示してくれた。ただ、無言で彼女の方に振り向き、目が半開きになっているせいで、少し驚いてしまった。
 ただし、これが彼のいつもの顔つきである。
「・・・別に何でもいいだろ」
 そう吐き捨てて、彼はすぐに画面の方に視線を戻した。
 桂一のそんな態度に、水希は軽く舌打ちをしながら、再び彼に絡む。
 今度は、身を乗り出してみた。
「なんでもいいとかじゃなくて、私は何をしているのか知りたいの」
 しかし、彼女のその行動を察知していたかのように、桂一もパソコンの画面を隠そうとして、水希との間に体を入れる。なかなかのナイスディフェンスだ。
 だが、水希も黙ってなかった。さらなる言葉の圧力をかける。
「別に見せてくれたっていーじゃん!アンタが何をやってたってアンタの事をバカにする訳じゃないし、ただほんのちょっとだけ興味があるだけなんだからさ!」
 ほんのちょっとなんて事、全く無い。ただの建前と言うやつである。
 ところが、彼女の訴えにも動じず、依然として桂一は体を入れたままだった。
 こうなったら強行突破しかない。言葉で説得出来ないんだったら、力づくで対処するまでだ。
 水希は桂一の肩を掴んで、力を込めながら引っ張る。しかし、彼も負けじと抵抗する。
「見せろおぉぉぉ!」
「・・・・・・」
 最初は、ふざけているつもりだった。
 しかし、手のひらで遊ばれているような感覚が、水希にはあった。声をあげているのは彼女だけで、桂一は全くの無言。何かを伝えようと言う気も無いのか、そのままの表情を変えずに水希の相手をしているのだ。
 桂一に、余裕があるような気がしてならなかった。
 それでも、力技で桂一が勝つことはあり得なかった。何せ、桂一は部活動に所属をしておらず、学校が終わればすぐさま家に向かう様な人だ。たとえ相手が男子と言っても、そんな筋力がほとんどない様な男に陸上部の水希が力で負けるはずがない。
 よって、水希に軍配が上がった。
 引っ張っていた桂一の体を、今度は横に押し出すことで、その方向に力を加えていなかった桂一は、あっさりとバランスを崩した。
 そのすきに、彼女はパソコンの画面をのぞく。
(さ~て、どんなものが映っているのかな・・・って)
 しかし、その画面にあったのは、彼女の予想と大きく違っていた。

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【悪魔通信】 第1話その1 「悪魔通信ってなに?」
「あー!ヤバい!遅れる!」
 茶色がかった髪を揺らし、制服のスカートなんか思いっきり上にあげて颯爽とコンクリートの道を駆け抜けていく、一人の女子高校生がいた。
 時折り彼女は店のショーケースにあるガラスで自分の身なりをチェックしながら、それでも立ち止まらずに走っていく。
 一瞬店の中に掛けてあった時計が彼女の目に止まった。
 朝八時半。学校の始業時間まで残り五分だった。
(くっそー!入学してまだ一ヶ月も経ってないのに、遅刻なんてしたらたまったもんじゃねぇ)
 目の前の角を曲がったら、ようやく校門が見えてくる。実際、すでに校舎を視界の中にとらえていた。
 彼女はさらにスピードをあげる。
(よし!このままカーブも減速せずにそのまま・・・って!)
 バンッ!
 角を出た瞬間、立ち止まっている男子にぶつかってしまった。
 しかし、ぶつかった衝撃に吹き飛ばされたのは、彼女の方ではなく、目の前の男子の方だった。
「ご、ごめん!大丈夫?」
 彼女が男子に近づく。彼は同じ学校の制服を着ているので、同じ高校であることは間違いなかった。
 しかも、彼女はその男子に見覚えがあった。
(あれ・・・?こいつ)
「あんた、もしかして神奈原桂一って人?」
 彼女がそう言うと、うつぶせになって倒れていた彼は彼女の方に顔を向けた。眼鏡をかけて、色白の少年だった。
「・・・・・・」
 彼は、彼女を見つめたまま、何も言葉を発さない。
(ったく、めんどくさい人に出会ったな)
 彼女は後頭部を掻きながら、桂一の前に手を差し伸べた。しかし、彼は無言でその様子を見つめているだけだった。
「ほら、さっさと手をとりなよ。学校遅れるじゃないか」
「・・・・・・別に」
 桂一は顔つきに似合わない、はっきりとした声を出した。彼のその言葉を聞いたのは初めてで、彼女は軽く驚いた。
「別に、俺を置いて行ってもいいだろ。水希さん」
「よ、よく名前を覚えていたわね。いつも教室の端っこにいるようなアンタが、人に興味を持っているとは思わなかったけど」
「俺の皮肉を言っている暇があったら、時間を気にする事だな」桂一はそう言いながら、体を払った。
「ヤベッ!そうだった!」
 水希はそう言って校舎の中心辺りにある時計に目をやった。

 キーン、コーン、カーン、コーン

 絶望を知らせる鐘が、たった今鳴り響いた。それは、近辺の家にまで広がり、学校の生徒以外には、何の利益も無い音だったが、水希にとっては、一番耳にしたくない音でもあった。
「は、ははは」
 もう、笑うしかなかった。向こう側にある校門の前で立っていた教師が、こちらの姿を見つけ、一歩ずつ近寄ってく。
(ああ、あいつに捕まれば、もう私はクラスの笑い物になるわけだ)
 それが、彼女にとっては苦痛でしかなかった。きっと、クラスの中でも一年中いじられキャラで通されるわけだ。
(バカされる。私よりも頭の悪い奴らに、バカにされる)
 いや、すでに目の前の男は、水希の事をバカにしていた。
「ははは、これで俺たちは立派な遅刻者だ」
 その言葉に、彼女の感情は、ある一つに定まってしまった。
 そして、爆発した。
「お前のせいだろうがああああああああああ!」

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