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Re:創成者の街 第二話 稲妻の叫び その2
「やあ、久しぶりだな。瀬野君」
 いつも通りのシマウマヘアーの創介と、替えの服がなく、仕方なしに創介のおさがり(白Yシャツ&黒ズボンの学生夏スタイル)を着ている俺と、瞳と体の見分けがつかないほどの漆黒のカラス、トトの二人と一羽が朝食のパンをかじろうとしたところで、Tシャツにホットパンツの雷少女、雷華が顔を出してきた。
 彼女の声が響いた瞬間、二人と一匹は一瞬だけ間が開いた。
「久しぶりって、昨日会ったばかりだろ」
 君付けで呼ばれることにむず痒い思いをしながら、俺は食事の手を再開して言った。
「いや、いいじゃないか。久しぶりと言えるのはそれだけ相手と会うのが待ち遠しかったということなんだぞ」
「どういうことなのかさっぱりわからんな」
 トトが吐き捨てる。
「そう固いことを気にするな。私だってよくわかっていない」
 じゃあなおさら駄目なんじゃないのか。
「それで、今日は何の用事でここに来たんだい?」
「そう言われれば、私は創介さんに用事があってきたのだったな」
 そういってそそくさと創介の隣に遠慮なく、朝食の真っ最中だというのにずうずうしく座る。
 創介には、さん付けなのか。
 俺にはよくわからない横文字を使いながら込み入ったような会話をしている雷華をみて、俺はそう思った。
「なんだ、気になるのか?青春真っ只中の少年よ」
「………」
 トトが、まるで俺の思考に割って入ってくるように、自然と俺を邪魔してきた。
「ほっといてくれ。届かない願いなんてあってないようなもんだしよ」
「なんだ、意気地なしだな。ビビりか?」
 そこであえてチキンと言わないあたり、割と言葉を選んで使っているように思える。
「関係性が壊れてギクシャクなるよりはましだって言ってんだ。第一昨日今日であった相手に気楽に話せるかよ」
「あー駄目だね。実によくない。第一お前は恋愛についてわかっているつもりなのか?そんな逃げ腰で女の尻をとらえられるとでも思っているのか?」
 そういうお前はおっさんかよ。
「変な言い回しはやめろ。誤解されかねないだろうが」
「この際気にすることじゃねえよ。物事ってのはすべてに個人的な優先順位がついてるってもんだ。今のお前の優先するべきことナンバーワンは雷華と付き合うことだ」
「あのなぁ、からかってるんだったら本気でやめろよ。関係のないことで相手を困らせるだろ」
「あらまぁ、お優しいのね真人ちゃんは」
 いっぺん蒸してローストチキンにしてやろうか。
 数秒の間、頭の中で個人的かつ内密に、徹底的な議論を交わした挙句、異臭で誰も食べようとしないだろうとのことで却下された。
「そもそもだなぁ。あんなに攻撃的で無邪気な女もそうそういないぜ?狙うなら今だろ」
「知るか」
 トトの言葉を一蹴し、
「攻撃的な性格が魅力の一つに加わると思う時点で、お前はズレてるんだよ」
 吐き捨てるように俺は言った。それで話を終わらせたかった。そこからトトがしゃべろうとも、俺は無視を徹底して貫くつもりだった。
「おとなしいメスに魅力は感じねえよ」
「人間をメスとか言うな」
 無理だった。
 ただ、このままトトに攻撃を加えられないのも癪なのもので、一発だけぶちかましてやりたくなった。
「カラスが人間の恋愛なんか語れっこないだろうに」
 トトの目蓋がピクリと動いた。これはいいジャブを効かせられたみたいだ。
「あのな――」
「『恋愛』の話なら私も混ぜてくれ」
 一瞬の間。それは雷華が家に訪れた時と同様の間、と言うよりは雷華が話に割って入ってきたのだが。
「な、なな、なんだよ急に」
 俺の顔から三十センチも無いくらいの位置に女の子、もとい雷華が急に現れたことと、先ほどまで雷華について話していたことが交差して、今まで以上に胸の鼓動が急速に脈を打つ。妙な冷や汗まで掻き始めた。
「いやあ、『恋愛』という言葉が聞こえたのでな。これは是非とも私が参加するべき会話だと思ってお邪魔させてもらった次第だ。こう見えても私は立派な女の子を満喫しているのだぞ。相談ごとであったら受け付けている。ほら、続けてくれ」
 恋愛相談なんかお前にやったら滅茶苦茶になるだろうが!いや、それ以前にそもそもの話の焦点が雷華なわけで、それをお前に話すとそれはそれで妙なことになるわけで、恋愛経験云々以前に雷華自身が変な対応をしかねないし、もしかしたら頬を赤らめてくれるとか――いやいやいや、何を考えてるんだ俺は。と、とりあえず何か言わなくちゃ。話を進めないと目の前の馬鹿ガラスがとんでもない爆弾を落としかねない。
 なんて頭の中で思考をめぐらしながら、自分でノリ突込みをしつつ何とか言葉を絞り出す。
「そ、そーいえば、創介に何か用事があったんじゃないのか?」
「ああ、その件ならもう終わったよ」
「………」
 会話が終わったじゃないか!どーしてくれんだよ!
 な、なにか、何か考えろ。話を逸らさないとえらいことになる。ってああ!あの糞カラス、こっちを見てにやにやしてんじゃねえか。おいちょっとやめろ、口を開くんじゃ……。
「さっきな、俺たちでお前のことが――」
「うわああああああ!!!」
 何を思ったのか、ついに俺の中の頭が暴走を始め、大声でトトの言葉を掻き消すとともに、その場から逃げ出すように店を飛び出した。それはもう、ネズミを見つけた某猫型機械のように、上司に悪巧みが見つかった某駐在のように。
「真人~まだ朝ご飯の途中……」
 後ろのほうで創介のそんなのんきな声が聞こえたが、構ってられるほど俺の脳内回路のキャパシティがなかった。


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Re:創成者の街 第二話 稲妻の叫び その1
 風が、吹いている。決して不快感を与えるような悪風ではなく、むしろ心地よさをもたらしてくれる、良風を体全体で感じ取った。時は夕方。日が沈みつつもまだ粘って地上に顔をのぞかせようとしている。そろそろ休んだっていいんだぞ。
 俺は今、創介の家のベランダに手をかけて、一人黄昏ている。頭の中では様々な思考がめぐっては衝突を繰り返し、やがて自然に消滅していく。集中力がないのかと言われれば、何のためらいもなしに、「はい、そうです」と言えるのが心苦しいが、それ以上にひどいことが現在俺に降りかかっている以上、そんな小さなことを気にしてもいられない。
 どうやら今の俺には、鍵の破片が本当に後頭部に突き刺さっているようで、そこから自分で封印してしまった記憶がほんのわずかだが漏れ出す可能性が生まれたらしい。それには何かしらのきっかけが必要になるのだが、今から約2、3時間前に創介の家の本棚にあった本を引っ張った際に両隣にあった本を一緒にぶちまけてしまい、それが頭にぶつかった衝撃でなんと記憶がわずかに戻ったのだった。しかし、その記憶というのが……。
『俺は高校時代の友達が一人もいない』
 つまりは、一人ぼっちだったというわけだ。どういった経緯でそんな状態に陥ってしまったのかはまだ思い出せないのだが、高校時代の友人と呼べる相手が一人も検討がつかないのだった。もしかしたら、ただ単純に思い出せないだけなのかもしれないが、少なくとも、「俺は友達なんて必要ない」といった発言を繰り返していたことは確かだった。
 どうして俺はあんなことを……。と頭を抱えたくなるが、ここはぐっと我慢して、ため息をつくことにした。
「おーい」
 すると、ベランダの下のほうから声が聞こえた。若い女性の声。もしかしたら自分と同い年くらいの人かもしれない。俺は思い切って身を乗り上げ、下に顔を向けた。
 そこには、金色とも黄色とも言えぬ微妙な色調を持った短髪少女がこちらに向けて手を振っていた。首元にはヘッドホンを回しており、半そでのシャツから延びる健康的な腕は、いかにも活発そうな印象を俺に与える。
 ……ん?
 今俺のいるベランダから下の道で見上げている彼女との距離は大体一戸建ての家の高さほどあるのだが、彼女が俺を見上げているのと同様に、俺が彼女を見下げているのであって、真正面からでは絶対に見ることのできない角度になっているわけで……。
 これは、不幸な俺に神様とやらが与えてくれた幸福なのかな?
 彼女のシャツの隙間から、小さな二つのお山の麓が垣間見える
 ……しばらくは、楽しんでもいいよな?
「見ない顔だな。もしかして君が別の世界から来たって男の子かい?」
 距離のある俺に向かって聞こえるための配慮か、少し張った声を俺に向けて放つ。しかし、俺は静かに楽しんでいたい。俺はうなずくだけにした。
「そうか、だったら私のする行動は一つだな」
 すると、彼女はくるっと半回転してその場所から離れていく。くそ、もう少し見ておきたかった。
 4,5歩したところで、彼女が振り返って言う。
「頼む、そこから動かないでいてくれ」
 え?いや、それってどういうことで……。
 俺が動揺している間にも、彼女は勝手に体操を始める。関節を捻るたびにポキポキと音を立て、少しずつ彼女の体が臨戦態勢へと整っていく。
「な、何を始めるつもりなんだよ」
 俺は同様の中で何とか絞り出した言葉を精一杯彼女に向ける。
 しかし、体操を終えたらしき彼女は、たった一言。
「まあ見ててよ」
 その言葉がまるでスタートの合図化のように、彼女の体が行動を始めた。
 そして、一瞬ですべてが終わった。
 わかることは、ベランダの下にいた彼女が一瞬で俺の隣に移動したこと、そして俺のすぐ横を異常な速さで通り抜けたことくらいだ。当然、彼女がどのような方法で、何をしたのか詳細を把握できるほど目が追いつくことなどなく、俺はまるでハリウッド映画のワンシーンに立ち会ったかのような衝撃を受けた。
「ふう、驚かせたか?」
「驚かせたじゃねえよ!何涼しい顔で平然とそんなところに立っているんだ!」
 なにも俺が彼女に癇癪を切らして叫んでいるわけじゃない。動揺して言葉があふれ出ているだけなのだ。普段なら気持ちの中に留めているわけで、何もそこまで彼女を責める必要など、微塵もないことは明らかだ。そう、明らかなのだ。
「ん?どうしたんだいったい、なぜ君はそこまで慌てているのだ」
「危なかっただろ!真横通り抜けたじゃねえか!」
「ああ、だから先に言ったじゃないか。そこから動くなと」
「もっと言うべきことがあるだろ!」
 ここまで叫んで、ようやく俺は息を切らした。そして彼女は、依然として涼しい顔で俺に微笑んでいる。滅茶苦茶だ。
何が神様が与えた幸運だ。むしろ疫病神だ。
「……何を、したんだ」
「簡単な話だよ。下の道からジャンプしたまでさ。いつもやっていることだから慣れている」
「せ、せめて、もう少し詳細を」
 俺は何か良くないことを声に出してしまったのだろうか。俺の質問に対して、彼女の眼の色が変わった。それはもう、星のように満天の輝きを持たせて。
「そうか、君がそこまで気になるのだったら教えてあげようじゃないか。私がいた道に小さな電撃を与えて軽い爆発を起こすんだ。そしてその衝撃の発生と同時にジャンプを――」
「ち、ちょっと待て」
「なんだ急に、そうも間隔もあけずに質問されてしまうと話が進まないんだが」
 確かにそうだろう。でも、俺には聞き流してはいけないような単語が耳に入った気がするんだ。
「小さな電撃を与えるって、そんなことが可能なのか?」
「可能も何も、私は『電気の創生者(メイカー)』だぞ?」
 め、めめ、メイカー?
「なんだよそれは」
「え、知らないのか?この街の半分以上は占める生き物のことなんだが」
 知らない。全く聞いたことすらない。そもそも人間が自発的に電撃を発生させて、こともあろうか爆発させるなんて。いったいどんな超能力者だ。
 まてよ、そもそも創介にだって似たようなものを持ってたじゃないか。記憶を見ることができる、だったけか?それと鍵を人に刺しても血を出させないのも特殊能力かもしれない。
 ただ、彼女のさっきのセリフで俺がどんな状況に陥っているのかを詳しく把握していないことがはっきりした。少なくとも、俺がこの世界のことをほとんど何も知らないということを彼女は知らない。
 一度、ハッキリさせておくべきだろう。
「あの……」
「ああ!なるほどそういうことか!これはすまなかった」
 彼女が、俺の言葉を全く聞き耳を立てようともせずに、自分の言いたいことを勝手にぶちまけた。
「何がそういうことなんだ?」
 俺の状況を理解してくれたのだろうか。
「自己紹介がまだだったな」
「…………」
 闇雲に期待したのが馬鹿だった。俺は彼女の姿にあの創介の近くにいる黒いカラスを見た。
「私は『輝創雷華(きづくり らいか)』と言う。みんなからは雷華と呼ばれているが、まあ何とでも呼んでくれ。私は自分の名前に断固として誇りを持っているほどお堅い人間じゃない。それと、さっきも言った通り、『電気の創成者』でもある。普段はこうして外をぶらぶら歩いてはいる人いる人と楽しく談笑したり、近所の子供と遊んでやったりしている。夜は私の仕事をしているんだが、まあそれはおいおい説明するとしようじゃないか」
「輝創か、また珍しい苗字だな」
「珍しいというか、まあそんな認識でも間違ってはないか」
 ん?妙な言い回し方だな。
「まあ、その辺はまた今度話すとして、とりあえず君の名前を教えてもらおうじゃないか。なんて名前なんだい?」
 雷華がまたもや目を輝かせて身を乗り出してきた。お前は純粋無垢な子供か。そんな目ができるほどの年齢はとっくに過ぎているはずだろ。
「せ、『瀬野真人』。今はどういうわけか昔のことを思い出すことができない。少し創介の悪ふざけに付き合ったせいで、えらい目にあった。歳は18……」
「え、えー!」
 一瞬の間。雷華の予想外の大声で俺の鼓膜が使い物にならなくなるんじゃないかと思った。
「な、なんだよ急に」
 すると、妙に興奮気味な彼女が声をさらに荒らげて言う。やめろ、それ以上はいけない。
「そ、創介さんと知り合いだっていうのも驚きだけど、ま、まさか18歳!?私と同い年なの!?」
「別に珍しいことじゃないだろ。自分と同い年なんてこんだけ広い世界ならいくらだって……」
 なんて、冷静に、呆れた声を出しつつ落ち着かせようとしたが、むしろ彼女はさらに俺の鼓膜に攻撃を加える。
「ところがどっこい、私と同い年だなんて今まで一度も会ったことがないの!まさかこんな形で同志に巡り合えるとは!」
 同志と言うな。お前と俺じゃどこをどう探したって共通点なんて見つからないだろ。
 呆れてものも言えなくなった俺はそそくさと帰ろうとしたところ、急に手を引っ張られて危うく転びそうになる。
「なんだよ!あぶねえじゃねえ……」
 俺は口がふさがった。あ、いや、そういう意味じゃないくて、目の前の、今の状況に対して呆れずともものが言えなくなってしまった。
 自分の歳を18といった彼女が、俺の片手を両手で覆いつつ、半泣き状態になっているのだ。
 な、なななな、なんだよこの状況は!女だぞ、女の手の感触を味わっているのか!?高校の記憶は無いにせよ、少なくともこんな経験なんてめったにあるもんじゃない。どうせならしばらくこのままで……。いやいや!何言っているんだ。こんなところをもしほかの誰かに見られてみろ。誤解されて罵倒を浴びせられるのは俺のほうだ。
「あの、雷華さん……?」
 俺は彼女の具合を確かめるべく、なるべく低姿勢で、刺激しないように尋ねる。
「ああ、すまない。あまりにも嬉しくてな。つい取り乱してしまった」
 彼女の手が俺から離れる。ぬくもりが残る手に、少しずつさみしさがこみあげてくる。
「ひとまず今日のところはこれで失礼させていただこう。君とはいい友人になれそうだ」
「あ、おい!」
 彼女は俺の呼び止める声に反応することなく、ベランダからひょいと降りて行ってしまった。
 しまった、雷華にはまだ聞きたいことがたくさんあったのに。
「じゃーなー!」
 遠くのほうで雷華が手を振る。本当にうれしそうに手を振る彼女を見ると、また会えそうな気がして心残りも自然となくなってしまった。

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Re:創成者の街 第一話 記憶の鍵 その3
『うわあああああああ!』
 創介とトトが今までにないくらい取り乱しながら叫ぶ。
「な、なな、なんだ!?何が起きたんだよ!?」
 思わず俺は衝撃を受けた頭部に手が触れる。その行動が、あまりに無用心で、無防備な行動であったことに気づく。
 触れた手には、人体では考えられない感触があったのだ。例えて言うなら、金属のような硬さが……。金属?
 おいおい、ちょっと待て、さっき創介の手にあったものはなんだったんだ?確か鍵のようなものの破片があった筈で……。
「あのー、取り乱しているところ失礼しますがー」
 俺の言葉で、一瞬で空気が凍った。まるでポンコツロボットのように不自然に、ぎこちなく首だけが俺に向いた。
「あの、まさか、創介の手に持っているそれ。いったい何でしょうか……?」
 俺に指摘されると同時に創介の手が背中へと隠れる。
「なんか頭に刺さっているような感触があるんだけど、疑うつもりはないよ!もちろんそんな気はさらさらないけどさぁ、もしかして、それって何かの鍵なのかな?」
 無言、無反応、そして首筋には光る汗。
「万が一、万が一だよ。まさか自分から記憶を戻すことができるって言ってくれた創介さんがそんな失態をするなんて思いもしないんだけどさぁ。その鍵が、回している最中に折れちゃった、なんてこと、……ないよね?」
 またもや無言。頭の中で無尽蔵に嘘だろと連呼しながら、俺は創介の頬に沿う汗を見つめていた。その汗が床に落ちた瞬間、俺の中で何かが切れた。
「うわあああああああ!」


「お、落ち着いた……?」
「落ち着けるわけないだろ、こんなことになって……」
 恐る恐る尋ねる創介に、ぶっきらぼうに応答する。
 どうやら、俺の予想はあたっているようで、創介が俺の記憶の中に入る際になにやら鍵を刺さなくてはならないらしいが、よくわからない力が働いているおかげで俺が認識している、『刺す』ではなく、痛みもなければ出血もない。
 それだけなら全く問題ないのだが、鍵が途中で折れてしまったため創介が俺の記憶の世界に入ることができなくなり、俺の記憶を元に戻すこともできなくなってしまった。
 つまりは、元の世界へ帰る希望が、完全に絶たれてしまったわけだ。
「ぼ、僕もこんなこと初めてで、鍵を創ることはできても、どうやって修復すればいいかわからないんだ」
「それは何度も聞きましたよ。でもどうすりゃいいんだ……」
 頭を抱えると鍵が指先に触れてしまうため、俺はただうなだれるだけにしておいた。
「でも、鍵が少しばかり回っているから、もしかしたらちょっとした拍子で記憶が漏れ出してくることがあるかもしれないよ。そうしたらさ、ほしかった記憶が不意に思い出せるかもしれない!」
 あくまで推定なんだよな。創介さんよ……。
 例えて言うなら音楽のクレシェンドのように上がり調子で空元気を出す創介にただただあきれるばかりだった。
 おまけに、目の前の黒い塊は俺の気なんて全く考える余地もなく言う。
「まあさ、俺らは元からお前をここに泊めるつもりだったから、別段気にすることはないんじゃねえのか?これといった特徴もないお前にも興味を示してくれる輩なんぞうじゃうじゃいるだろうし、この街も悪くはない、てか暮らしやすいと思うぜ」
 トトの言動に軽くイラっとするが、いちいち怒る気にもなれない。俺は静かに呟く。
「このままこの最悪の状況を受け入れろとでもいうのかぁ?」
「わざわざ受け入れなくたっていいだろ。それ以外に方法なんざ無いんだからさ」
「お前は他人事だからいいよな……」

 こうしている間にも時間が過ぎていく。外はすっかり夜へと変貌を遂げ、街の灯りも生活音と同様に次第に消えていく。
 人生は選択の連続だなんてよく言ったものだが、どうやら俺にはその選択肢すら与えられなかったみたいだった。

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Re:創成者の街 第一話 記憶の鍵 その2
「力って、どういう意味だ?なんとかしてやれるって……」
 ちゃぶ台の上で軽い毛づくろいをしているカラス、トトが言い放った言葉に、俺は動揺を隠しきれず、思い余って、あろう事かトトに質問してしまった。しゃべりだすと止まらないこのカラスに。
「どういう意味っていってもな。そのまんまの意味としか言いようがねえよ。ほら、例えばお前には目がある。その目という物体は、常に世界をどのような形であるのかとらえるために備わっている。そして、二つ存在する理由も、単にスペアとしての機能があるわけじゃなくて、二つあるからこそできる技があるわけだ。けど、その機能、つまり力は何もお前が望んでそうなったわけじゃない。そして、創介の力にも同じことが言える。自分で望まずに手に入れてしまった力っていうと語弊が生まれるかもしれんが、まあ、大体そういうこった」
「トト」
 トトの、まるで自分のことのように話すその言葉に、創介がツッコミを入れた。
「多分、真人が知りたかったことはそれじゃない」
 一瞬の間。
「あれ?そうだったか。まあ、いいってことよ」
 おい、バカガラス。冷や汗が拭い切れてないぞ。
 創介までもが、ため息を一つ吐いた。
「簡単に説明すると、僕は他人の記憶を見て、思い出させることができるんだ。君のいた世界で言えば、ある種の超能力者的な、そんな人間なんだ。だから、君が無くしてしまった、思い出せなくなった記憶を呼び起こすことだってできる」
「もし、それができれば、俺は元の世界に帰れるってことなのか?」
「可能性として、変えることができるかもってだけだよ。実際は違うかも知れない」
 創介は、〝可能性〟の言葉を強調して言う。先ほどののほほんとした雰囲気はほとんど感じられなくなっていた。大人で言う、仕事モードというべきか、とにかくそんな感じによく似ている。
 そして、創介は更に付け足す。
「あと、僕はあんまりオススメできる方法じゃないんだけどね」
「オススメって……、何かまずいことでもあるのか?」
 創介は、あからさまに嫌な表情を浮かべた。何かを思い出してしまったのか、それとも、単純に俺の追求が気に入らなかったのか。少なくとも、後者であって欲しくないが。
「人の記憶を呼び起こすことってのは、それだけ強い衝撃が後に残っているってことなんだ。鍵を失くしたとか、暗証番号を忘れてしまった程度なら、僕も嫌がらないし、むしろ喜んでお手伝いさせていただくんだけど、君は記憶のなくなり方があまりよろしくないんだ」
 俺は思わずつばを飲み込んだ。彼の次の言葉に、慎重に耳を傾ける。
「そもそも、記憶の失くし方は、大きく分けて三通りあるんだ。まず一つ目は記憶の上乗せ。ほかの作業と並行して行うと、どちらか一方の些細な行動を忘れてしまうというような現象だ。鍵を失くすなんてのがこれに当てはまるね。そして二つ目に、外的衝撃による記憶喪失。漫画とかでボールが飛んできて頭部に直撃。そのまま私は誰状態になってしまうのがこれだね」
「じ、じゃあ。三つ目ってのは……」
 俺の言葉に反応して、創介の閉じた片方の目が開く。
「自ら記憶を消去する方法。ここまで来るとかなり厄介なことになるんだ。そもそも忘れようとして記憶を忘れようとすることなんてのは、そこまで珍しいことじゃない。誰にだって思い出したくない出来事くらいはあると思う。でも、それを無理矢理掘り起こそうとすると、どうなるかわかるかな?」
「……多分、後悔すると思う」
 答えなんてわかるわけないのだから、自信なさげに言葉が出るのもしょうがないと思う。でも、あまりの創介の経験則のような言葉の使い回しに、少しビビっていた。
 創介は、そんな俺を見かねることもなく、遠慮なしに続ける。
「それだけで終わればいいけどね。真人が一体どれだけ記憶がなくなっているのか僕は知らないけど、かなり長い期間記憶がなくなっているとしたら、それは相当な衝撃と、拒絶の塊であったわけだから、それを無理に引き出そうとすればそれこそ、自殺しかねない。考えてみてもそうだろ?例えば中学校でいじめを受けていて、その辛い出来事を思い出したくないから、いじめに関する記憶を消そうとする。すると、自分をいじめていた所謂いじめっ子の風格、性格、人間関係までもを忘れ去ろうとする。すると、いじめを受けていた中学校の、かなり長期間の記憶喪失が生まれてもおかしくはないんだ。」
「もしかしたら、それが俺なんじゃないかって?」
 俺の問いに、創介は静かに頷く。
「今回のケースはただでさえ異常続きなんだ。もしかしたら、僕の想像をはるかに超えた記憶が、君の頭からごっそりと消し去ってしまったのかも知れない。可能性は、ゼロじゃない」
 俺が、自ら記憶を消した?
 にわかには信じ難い出来事だ。一体全体どうして俺が記憶を消さなくちゃいけないんだろうか。皆目検討もつかない。
 ただ、創介が嘘をついているとも思えなかった。彼の表情、言葉使い、急に流暢に話し始めることからしても、まるで本物のように感じられた。それに、嘘をついて彼らに何かしらの利益があるとも思えない。
 信じて、いいのだろうか。彼らに従っていいのだろうか。
 俺は再び、意味のない自問自答をはじめる。
「……過去にも、経験があったのか?」
「ごめんね。悪いけど、それは答えることはできない」
 創介の表情は、本当に辛そうな様子だった。本人がそのような表情をしている異常、更なる言及は野暮と言うもので、そこで俺は別の質問をする。
「もし、もし仮にだ。創介が他人の記憶を覗けたとしよう。すると、どんな風に他人の記憶を見るんだ?他人の記憶を見ると言われてもイマイチ、ピンと来ないんだ」
 ああそれなら、と言って創介は両手をちゃぶ台の上に置く。
「簡単に説明すると、僕が相手の頭に手を乗せる。すると、僕は意識を君の中に飛ばして、記憶が貯蔵してある空間に行くんだ。そこで、思い出しにくくなっている記憶を引っ張り出して、それでおしまい。わかったかな?」
「……それはあくまで他人から見た様子ってことだよな」
 創介は静かに、自信たっぷりに頷く。
「実際の創介は、その、記憶の貯蔵されている世界に行くわけで、そこはどんな世界なんだ?」
 自分自身で【〇〇な世界】なんて単語を発すると少しむず痒くなってくる。いや、そんな言葉に惹かれる歳は、もう卒業したはずだ。今更何を……。
「そうだね、わかりやすく言えば、タンスかな。ベースは全く何も存在しない空間。暗くもなく、明るくもない。それでいて上下のバランスも存在しない世界。そこには、とっても大きなタンスが一つポツンとある。人によって大小さまざまな大きさがあるけど、それの一つ一つに鍵がかかっていてその鍵穴にあう鍵も、そこらじゅうに散らばっているんだ。僕はそれを回収したり、タンスの中身を整理したりしている」
 創介はひと呼吸おいて、「そして」の一言をつけて言う。
「君の場合は、鍵を『創って』タンスをこじ開ける必要がある」
 ん?鍵を『創る』って、どういうことだ?
 聞けば聞くほど、謎が次々と生まれてくるばかりで、一向に話が進みそうにない。根掘り葉掘りになってもまずかろうと思って、話を戻すことにした。
「それで、俺の記憶を戻すことはできないのか?」
「できるよ」
 あっさりと、創介は答える。
「記憶を戻すことは、そこまで時間はかからない。むしろ一瞬で終わるよ。問題なのはその後なんだ」
「関係ない。俺がどうなろうと、無くなった記憶なんて結局は俺の記憶なんだ。さっさと元に戻して元の俺の家に帰りたい」
「……それが、君の意思なんだね?」
 噛み締めるように、創介は言った。先ほどの辛そうな表情もチラと垣間見えるが、そんなことは気にしない。俺は俺だ。
 俺は、静かに頷いた。
 それを確認すると、創介は俺の背中へと回り込んだ。動いて欲しくはなさそうで、俺もなるべく動かないように務める。
 すると、創介の手が俺の頭の上に添えられた。
「それじゃあ、行くよ」
 創介の言葉と同時に、俺の後頭部に衝撃が走った。痛みはほとんどないものの、かなりの圧力がかかった感覚があった。
 パキン
 ん?なんだこの音は。金属音のような、甲高い音が聞こえた。
 創介の話の途中では静かにしていたトトが、口をぽかんと開けて俺の頭上を見上げている。
 いくら何かしらをやってくれているとしても、トトのその様子と聞きなれない音に、俺は後ろを振り向かずにはいられなかった。と言うより、ほぼ反射的に、無意識に振り返ってしまった。
 そこには、まるで鍵のような形をしていたであろう金属の破片を握った、顔を真っ青にした創介の姿があった。

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Re:創成者の街 はじめに
今更になって、こんな記事を書くのもおかしな話ですが、
初めて【Re:創成者の街】をご覧になる方に、あらすじを兼ねて紹介します。



目を覚ますと、自分の全く身に覚えのない場所にいた少年、瀬野真人。
なぜ、こんな場所に来てしまったのか、どうやってこの場所に来たのか。
それどころか、ここの数年間の記憶でさえ、思い出せなくなっていた。
この物語は、少年、瀬野真人の記憶を取り戻すために、
少し変わった生き物と、会話し、時に笑い、時に涙しながら、
少しずつ、自分という存在を取り戻していく物語である。



【登場人物】(順次更新)

瀬野真人(せの まさと)   主人公、十八歳

夢想創介(むそう そうすけ) ???歳 見た目は青年である。

創時茜(そうじ あかね)   ???歳 見た目は小学3年生くらい。とても幼い。

トト(とと)         ???歳 少なからず、まともなカラスより長生き。
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