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【創成者の街】プロローグ『創成者の街』 その1
 気付いたら、私は走っていた。家を飛び出してきたくらいだから相当怒っていたんだと思うでも、何をきっかけにしてそこまでキレたのかは私は覚えていない。ただ私は自分の思うまま見慣れた街、歩きなれた道をわき目も振らずに、私の感情を垂れ流しながら走りぬけていた。
 時には路地裏に向けて足を延ばしたりもした。陽の光で明るく照らされていた道とはうってかわって暗くじめじめした空気感が私の体を突き抜けていく。その風がさらに私のイライラを募らせていく。私はより一層走る足を止めようとしなかった。目的もなく、どこかへ行くわけでもないのだが、走らずにはいられなかった。

 そのせいで、私は自分の周りの風景の変化に気付くことができなかった。
 足を進めるにつれて古い写真のようにモノクロの世界が広がり始め、道路を走る車の音や動物の声なども少しずつ薄れていき、終いには私の五感まで消え始めていた。
 だんだんと私が私じゃ無くなっていくような、そんな感覚がまとわりついていることに……。
 そして、突飛な世界は本当に突然訪れるようなモノだと言うことを私は実感した。

「えっ……」
 私は、何かに足を踏み外したみたいに、急に落下し始めたのだった。
「きゃああぁぁぁ――!」


「――ぁぁぁああああ!!」
どっしーん!
 それはもう、地響きのようなとても大きな振動音を出して私は地面にたどり着いた。お尻から落下していたせいで、着地した時には体操座りのような格好をしていて両手だけが落下のスピードに遅れたように万歳している。
「い、痛つつ…」
 落下の瞬間両目を閉じており、今現在もそうしたままであるから自分が今どこにいるのかを認識する事が出来ていない。お尻に感じている痛みをこらえながら私はゆっくりとまぶたを開く。
 目の前には、暗闇が広がっていた。
 一瞬私は自分の体がいうことを聞いていないのかと錯覚してしまった。まぶたを開こうと思ったのに、まだ閉じたままなんじゃないかと。しかし、もう私には開くためのまぶたを持ち合わせていない。つまり本当に光の届かない場所に落ちてしまったと言うことだ。
 かなり長い時間落下していたと錯覚しているせいで自分はマンホールのような何かに足を踏み込んでしまい、そのまま長時間落下していき最悪なことに光の届かないほど高低差のある所にたまたま入りこんでしまったのだと思い込んだ。
 ――ど、ど、どどど、どうしよう……!
 勘違いをしている私はパニックになりながら何か脱出できる方法を探すべく体を動かそうとする。しかし、私の体はそのような危険な状況にも関わらずいうことを聞いてくれない。いや、正確には何かに体を挟まれていて身動きが取れない状況だったのだ。尻餅をつくような姿勢が丁度何かの隙間にすっぽりと収まったようで、そのせいで立つことすらできないのだった。
 ならばと思って私は落ちてきた所に目掛けて助けを呼ぶ声をだそうと思って上を向いた。しかしそこでも私の予想を上回る事実が私をさらに焦らせた。
 落ちてきた場所が全く見当たらないのだ。いくら光が届かないほどの暗闇だからと言って自分の落ちてきた所くらいは流石に星の光程の小さな光でも見えるはずだろう。しかも私が落ちてきた時間帯は丁度真昼の時間だ。だから余計に光が見えてもおかしくないはず。なのに私の目の前にある暗闇の世界は完全な黒を私に見せつけていた。
 刹那、私の体中から血の気が引いて行く感覚を味わった。
 今の私の感情を表すとしたら全くぴったりの言葉があった。絶望、の二文字だ。まさに望みが絶たれた。もう私のとれる策は完全に無くなった。たった二つばかりの脱出の方法でも私の頭で必死になって考え出した結果がこれだ。もう諦めるしかないのだろうか……。
 いや、そうじゃない。私は自分の置かれた状況を考える。
 もし、もし仮に私がどこかから落下していないのだとしたら、割とつじつまが合う仮定が生まれる。先ほど味わった落下が夢の中の話で、落下したときの音も完全に夢の世界で聞こえた音だとしたら、私はすでにこの暗闇の世界で体操座りをしていたわけだ。どうして?それは私が何かに収納されているのだったら説明がつく。私の体を包み込んでいるこの何かは私が傷がつかないような梱包材のようなもので、私は何かしらの箱の中に無理矢理押し込められてどこかに運ばれているのだ。
 それらを総合して出した結論は、私はかなりヤバい状況にいるということだ。
 それを知った途端、私は先ほどよりも余計に焦り始める。早く出ないと大変なことになるんじゃないかということばかりが頭の中を駆け巡る。

『――な―――が―こえた―――たんだけど』

 その時、外から声が聞こえた。声の感じからして気の弱そうな青年の声だった。
 私はそれを聞いてすぐに助けを呼ぼうと声を出そうと、
「―――」
 したけど、よく考えたら今自分はどこにいるのかが分からない。下手に声を出したら余計にヤバい状況に巻き込まれるんじゃないかと勝手な妄想を抱いてしまった。とりあえず四肢は満足に動かせる状況になるのだからここで助けを呼んだ方がいいのに決まっているのに、そこまで考えがまわらなかったのは、私の頭の中にある焦りと恐怖が互いに大騒ぎしているからなのだろう。
『参った――ここを開けるの―気が―けるんだ――な』
 そうしてぐずぐずしている間にも声の主はだんだんと近づいてくる。そのたびに私の焦りと恐怖は暴れはじめる。
 バン!と音がした。外から私が入っている箱のような何かに手をついた音だろうと推測する。
 ああ、ついに開けられるんだと私は思わず目をつむった。
 そして、次の瞬間私は体中に光を浴びる感覚と同時に、空中を舞う感覚を味わった。
「へ?」
 思わず間の抜けた声を出してしまったが、本当に私自身それくらいびっくりしたのだ。閉じられていた世界から抜け出したと思った瞬間、ポップコーンの如く箱の中身が弾け飛び、外の世界に吹っ飛んだのだ。
 私はそのままうつぶせの姿勢で床に落っこちる。でも今度は先ほどの地響きのような音はせず、むしろ殆ど無音で落下する事に成功したのだ。
 それもそのはず、私は衣類の上に落ちたのだった。それも一枚や二枚じゃ無い。十何枚と重なっている上に落ちたのだから、それらが丁度クッションの役目を果たしてくれたのだ。
 でも私はその衣類のふかふかした感触を味わう余裕を、暗闇から光の世界に飛び込んだ時に流れ込んできた光の刺激で目がやられたその痛みで奪われてしまった。
「……これはまた、珍しい所から訪問してくれたね」
 その声は、先ほど箱の外から聞こえてきた声の主と同じ声だった。
 私は反射的に体を翻し、しかし腰が抜けているせいで立ちあがることもできないまま後ずさりするようにできる限りそれと距離をとる。自然と壁を背にすることになった。
 私はそこでようやくその声の主の姿を直視した。
 見た目は二十歳に行くか行かないかのような青年で、よれよれのワイシャツに黒のズボンをはいており、ズボンが落ちないように彼の腰を縛っているベルトは長さが余りすぎてお尻の位置から余りのベルトが垂れ下がっているので、思わず彼にしっぽが生えているんじゃないかと錯覚してしまう。おまけに彼が細身なせいでワイシャツのサイズがワンサイズ大きい様な感じに見られた。でも、これだけであれば、ベルトを除いていたって普通の青年だろう。ただ、彼が普通じゃないと思わせる要素が、彼の髪の毛にあった。前髪は彼の眉間を隠すように一つの束が垂れ下がっており、他は彼の瞳を避けるようにほんの少しずれて生えている。耳を隠さんばかりの横髪は途中で外側にはねているものもあって、ワックスで髪の毛を整えているようで無い事は容易に分かった。そして一番異質なのは、彼の髪の毛は基本色は黒なのだが、幾つかの髪の毛の束がまるでストレスで脱色したには信じられないほど綺麗な白銀の色を携えていたことだった。けど、それは決して綺麗とは呼べるもので無く、その白銀の髪は何かが抜けていることを象徴していると思えるほど生気が全く感じられなかった。
「あの……こんにちは。言葉、分かる?」
 私が警戒の視線を彼に向けていると、彼は戸惑ったようにか弱い声を出して一礼した。
「……こんにちは」私はそれでも警戒心を解くつもりはなかった。まだ彼がどんな目的でここにいて、私に意識を向けているのか分かったものじゃない。できる事なら今すぐにでもここから逃げ出したかったが、生憎まだ立てそうになかった。
 しばらく彼から視線を離さないでいると、彼は無表情のまま少しだけ言葉を出し渋っているように指を唇にあてていることに気付いた。
 やがて、彼は意を決してその言葉を口に出す。
「その……見えているけど、いいの?」
 その言葉を言われている間は彼がどんな意味で言っているのか理解できなかったが、彼の指を差している方向がまっすぐ私に向けているわけじゃ無くてほんの少し角度が下を向いていることに気付いた瞬間、私は全てを悟った。
「――っ!」
 私はすぐに手でスカートを押さえたが時すでに遅し。恥ずかしさのあまり、私の顔が赤く染まっていくことが自分でもよく分かった。
こんなことならスカートなんてはいてくるんじゃなかった……。
「縞模様って結構珍しい――」「うっさい!ばかぁ!」

 それから十数分、私と目の前の青年は互いの顔を睨み合い続けていた。といっても青年の方は全く表情を崩すことなく、私の行動の意味を理解するために頭をひねっているように見えた。
「一つ、聞いてもいいかな……?」
「……」
 私はその問いに反応する事はせず、ただ彼を睨み続けて動かなかった。警戒心を解く気などなく、蛇に追い詰められた蛙の如くただそこに居座っているままだった。
 ただ、彼が何を私に聞こうとしているのかは大体想像ができる。どうやってあのクローゼットの中に入ってきたか、だろう。あいにく私だってそんなことわかっちゃいない。私だって知りたい。何をどうしたら道路で足を踏み外してあの服にまみれた箱の中に入ることができるのだろう。
 そして、彼が口を開いた。
「……何時になったら名前を教えてくれるんだい?」
「へ?」
 私の予想を大きく外したその問いに、私は間の抜けた声を出してしまった。
 確かにまだ彼と顔を合わせてから互いの名前を知らない。しかし、そんな簡単に自分の名前を相手に教えて良いものだろうか。どこかも分からないこの部屋の中で、普通じゃない雰囲気の男相手に教えて良いものだろうか。
 答えはノーだ。どんな目的で名前を聞きだそうとしているのかはっきりしていない今、自分の個人情報の要でもある自分の名前を教えるのは絶対にタブーだ。
「僕は『夢想創介(むそうそうすけ)』。一応この店の店主をやっているよ」
「……はい?」
 またしても私の考えの範疇を越えた言葉を口にした。自分から名乗ると言うのは礼儀がしっかりしていると誉めるべきなのだろうが、それ以上にことごとく私の想像を無視するその言葉の流れに、私は謎の場所に連れてこられたと言う事実を認識するために奮闘している頭がさらに混乱して行くのを感じた。
 だから思わず、口がすべってしまった。
「わ、私は『桜月弥生(さくらづきやよい)』っていいます……あっ!」
 意味のない行動だと分かっていても、自分の発した言葉をかき消すかのように口を手で覆った。もちろん、スカートの中身はもう片方のあまった手で隠している。
 創介と自分を紹介した青年は、弥生のその行動に軽くほほ笑みながら、
「弥生……か。いい名前だね。聞いたことのない言葉だ」
 その表情は、まるで赤ん坊をあやすときの母親のように優しく、そして彼の発した言葉が私の体を暖かく包み込む。一瞬ドキッとした自分に疑問が残るが、そんな余裕なんてなかった。
 創介は右手をのばして握手を促しているのだ。
「はじめまして、弥生」
 彼のその行動に私は思わずそれに従いそうになったが、我に返ってその手を引っ込めた。まだ彼が安全だと決まった訳じゃない。いきなり豹変することだってあり得るのだ。
「大丈夫。握手はそんなに怖がる行為じゃないんだ。お互いの存在をお互いに確かめあうために、相手の肌の感触を確かめて相手がしっかりと生きていることを確認するためにする行為なんだ。だから何も不安がる事は無い」
 また、あの表情が、今度は私の心に響いた。今となってはもうすでに、先ほどまでの『手を出したら何かされるんじゃないか』という警戒心バリバリの考え方など綺麗さっぱり無くなっており、代わりに『握手をしてやらないと相手に失礼だ』という考えが生まれていた。
 私の思いとは少しずれた彼の慰めの言葉は当然聞き入れなかったけどね。
「わ、私も聞きたいことがあるんですけど……」
「とりあえず立てるかい?話はそれからにしようか」
 その時、初めて創介が握手を求めるために手を伸ばしたのではなく、私の体を起こすために伸ばしたのだと分かった。そして、それに気付くのが遅かった自分は創介に対する申し訳なさで恥ずかしく思いながらその手をとる。
 私の心配とは裏腹に、案外すぐに持ち上げられてしまった。彼の細身の体からは少し考えられなかったが、私は自分が軽かったからなんだろうと勝手に解釈する。
「適当にその辺りに座っていいよ。お茶は僕が出してくるからくつろいでて」
 そう言って彼は奥の部屋に行ってしまった。
「…………ふぅ~」
 創介の姿が見えなくなってから私は思わず体中の力を一気に抜くようにため息をついた。極度の緊張から一気に解放されたからこその脱力感が体中を襲い、創介に促された場所の椅子に座った。
 このとき、ようやく私は部屋中を見渡す余裕ができた。
 部屋の中はかなり質素な作りで、床は土足オーケーのコンクリートで出来ており、壁紙は白色を張ったつもりだろうが、所々黄ばんでおり年季が入っていることを象徴しているように感じられた。家具は私が出てきたクローゼット――今は付近の床が衣類で散乱しているが――と私の座っているパイプ椅子とそれが四つ程置けるような長机があるくらいで、他には小物すら置かれていなかった。もしかしたら創介の向かった方向の扉一枚を隔てた部屋に人には見せられないような物があるのかもしれないと思ったが、しばらくそちらを調べようとするのはやめておこうと、床に散乱している衣類を見ながら思う。
「お~い、創介いるか?」
 突然、私の背後から声がした。気さくな感じの少年の声をとっさに頭でイメージする。台詞からして創介の知り合いだろうが、生憎創介は奥の部屋に行ったせいでその声には気付いていないだろう。
 私は反応しないのも可哀想だと思って振り返る。
 しかし、外へ通じる扉の開いたそこには少年らしき姿どころか、声を発したであろう存在が見当たらなかった。
 代わりにいるのは、ごみぶくろのような真っ黒い物体が一つ、床に転がっていた。
「お、お客さんかい?それにしちゃあ見ねぇ顔だが、お前誰だ?」
「ひゃあ!?」
 驚くことに、その真っ黒い物体が声を発したのだ。しかも私にも分かる人語で。
 よく見ると、その黒い物体は鳥の形をしていた。あまりの黒さに何処が瞳なのか分からなくて思わずごみぶくろに見えてしまったようで自分の視力に自身が持てなくなりそうである。
「な、な、なななな……なんで鳥が喋るの……!?」
「あ?………お前、もしかして……」
 そう言ってその鳥は私の座っている場所のすぐそこにある机の上に乗って顔を近づけてきた。あと数センチ近寄られると私の顔に触れてしまいそうなほど接近されていて余計に身動きが取れなかった。
 そうして私の顔をまじまじと見つめた後、その鳥は片頬を上げて――そんな雰囲気を出して――不敵な笑みを浮かべた。
「お前、やっぱり『真人間』だろ?」
「ま、真人間……?」
 その鳥の行動の意味が分からなくて思わずオウム返しのように呆けた声を出してしまう。ほんの少しの恐怖もあったみたいで声が震えていた。
 直後、奥の部屋から創介が湯気を出している湯呑が二つ置かれたお盆を持って現れた。
「なんか騒がしいと思ったら、君か。だったらいいけど、あんまり弥生を怖がらせちゃ駄目だよ」
「んなこと分かってるって」
 とても慣れたやりとりを私の目の前で見せられて、私はどんなリアクションをすればいいのか分からなくて、そのまま二人を見つめていた。
「ああ、そういえば自己紹介を忘れていたな」
 そう言ってごみぶくろの鳥はその黒く染まった翼を広げて創介の頭の上に乗っかった。
「俺の名は『トト』この街じゃ《言葉の創生者(メイカー)》として『ラングイッジ』だなんて呼ばれてるぜ」

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