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【創成者の街】プロローグ『創成者の街』 その2
「ち、ちょっと待って……。その、めいかー、って何?私初めて聞く言葉なんだけどなんかの肩書なんでしょうか?それともただ名乗っているだけ……?」
 トトの言葉を制止するように私は口を挟み、その行動がトトに反感を買ったのか彼は少し表情を歪めた。でも、その鳥に乗っかられている創介は全く表情を変えることなく、微笑を浮かべて私の言葉を聞いているばかりだった。言葉を発そうとする気はなさそうに思える。
「ただ名乗ってるってのはちと鼻に付くな~。そもそもさ、まずお前はこの世界のことを殆ど何も知らないだろ?だったらまずそこからお前は学ぶべきであって疑問に思った事を口に出していいのは俺らと同じ土俵に立ってからだと、そうは思わないか?」
「む……」
 確かにそう言われればそうだが、トトの喋り方もそれはそれで割と鼻に付く部分が多いと思う。まるで人をばかにするような言い方には私は納得できない。
「私はただ思った事をちょっと口に出しただけなのにそんな言い方は無いんじゃないかな」
「じゃあお前はなんだ?思ったことはすぐに口に出してもいいってか?そんなことが許されちゃあこの世は喧騒が絶えないと思うがな。お前はそんな考え方をするから他人のことをすぐに信じられないし、自分中心の考え方に偏りがちになっちまうんだよ」
 トトは最後に「俺の言っていることが分かるか?」だなんて付け加えるものだから、もう私は頭に来てしまった。なんで会ってすぐの、しかも人間じゃ無くて鳥相手にこんなに説教されなきゃいけないのだろうか。もう少しソフトな言い方があるだろうし、人よりもおしゃべりなら――さっきから殆ど何も口に出さない創介を基準にするのはあまり良くないだろうが――会話の仕方だっていろいろ知っているはずだ。初めに低姿勢で話した私がアホみたいじゃないか。
「あんたねぇ!私だって分からないことくら――」
 そこまでで私の言葉はストップしてしまった。創介が顔の前で人差し指を立てているのが分かったのがその瞬間だった。
 なんで止めようとするのと私は愚かにも創介に八当たりしそうになったが、彼の、私の行動を一時的に停止させたことが私の熱くなっている頭の中を冷やさせたようで先ほどに比べて冷静に自分を見つめることができた。間違っているのは自分だと分かっていたのに、それを認めようとしない自分がそこにいたことに。
「………その、ごめん」
 不本意ではあったが、一応謝罪の意味を込めて謝っておく。
 ただ、トトはそんなこと全く耳に届いていないのかさらに追い打ちをかける。
「なんだよ。張り合いがねぇな。もっと向かってきてくれたっていいんだぜ?俺は何時だってお前のぶちまけた思いを拾ってやるくらいのキャパシティは持っているし、お前みたいなアホとならたまには会話してやってもいいけどよ」
「……っ!」
 またそこで私は激情しそうになった。でも、それを止めるのもやはり創介であった。
「キミもいい加減僕の頭から降りたらどうだい?これじゃあ彼女にお茶を渡せないよ」
 そう言えばそうだった。彼は私の目の前でお盆を持って立ちつくしているのだった。
 多分、彼からしたら私たちの口喧嘩に数歩離れた所から傍観しながらいつお茶を出そうかという程度しか頭にないんだと思う。そう思えるくらい、彼の今の言葉は自分の感情が込められておらず、いたって冷静な声かけであったのだ。
 しかし、トトは注意されたにもかかわらずごめんの一言も言わずにそのまま降りたって私の目の前の机の上に乗った。トトの黒い羽が数枚ちらつく。
「まぁ、真人間のお前が《創生者(メイカー)》のことに疑問を感じるのも分からなくもない。実際聞いたことない言葉だろ?」
「………まぁ、無くは無いけど、こういう場所で唐突に言われるのはあんまりない……かな」
 聞いたことあると言っても、英語の授業で聞いたことがあると言った程度だ。「作る」という意味の「make」にerをつけたmakerのことなんだろうと勝手に解釈しているにすぎないわけであって確信しているわけじゃない。とりあえずトトに話を合わせていると言った感じだ。
 そして、一瞬の互いの沈黙の中で創介が私の前に湯呑を出してくれた。湯気が口から出ているところからして、淹れたてのお茶を出してくれたのだろう。当然いきなり口をつけるほど舌べらが鍛えられているわけでもなく、しばらく放置しておくことにする。
「俺らの語る《創生者》というのはこの住んでいる街がそう呼ばれていることにも由来するんだが……そうだな、一番手っ取り早くいうのなら『無』から『有』を創り出すことができる人たちの総称ってとこかな。元々この世界って言うのは『無』から始まって、そこから現在の『有』が蔓延している世界になるまでにはやはり『無』から『有』を創り出すしかないわけで、そんなときにその力を持った俺らが誕生したってことだ。さらに詳しく言えば俺みたいな言葉を創り出す―」
「ち、ちょっと待って……」
 思わず耐え切れなくなって私はトトの言葉を制止した。正直、頭の処理が追い付かない。
「いきなり意味がよく分からないんだけどさ、まず突っ込みたいのが、アンタって『物質の保存法則』って知ってる?さっきアンタが言ったような言い方をすれば『有』からはその物質を構成している物からでしか他の『有』を創り出すことはできないの。構成物質は変化する事は無いし、『無』から『有』だなんてなおさらだよ?」
「まぁ、そうだろうが、俺らはそれができるんだよ」
 何を言っているんだと言わんばかりにきょとんとした表情を私に見せながらトトは大した感情も込めずに言い放つ。それでも私は納得できず、引き下がるわけにはいかなかった。
「あのさぁ、そんなことができるのは言うなれば神様くらいで、別に神様に信仰心があるとかって訳じゃないんだけど、私たち生き物はせいぜい物質の構成を変化させることくらいだと思わない?そりゃあ何か特別な力を持っているってのは今のアンタを見れば分からなくもないけどさ、いきなり話が飛び過ぎているというか……」
「んじゃあとりあえず身近な所から聞いてみるが、お前は俺みたいな非人間の生き物がどうやったら人間様の言語を理解して話すことができると思う?正解なんてのはお前の基準で考えればどうせ出るわけないだろうから先に言うが、簡単に言っちまえばそれは俺が《創生者》だからだ。『ラングイッジ』だからだ。人間様の言葉でこんなのがあっただろ?『郷に入っては郷に従え』お前のいた世界がどうであろうと、ここには『無』から『有』を創り出せる《創生者》がいて、お前はこの世界にいる限り、それを受け入れなくちゃいけないんだよ。分かるか?」
 言葉の羅列を加える度に顔を近づけてきて、私はその度に後ずさりをするせいで終いに限界に来てしまいついに立ちあがる羽目になる。
 私はそんなトトに言い返すことができなかった。人をばかにするような話し方は相変わらずだけれども、それでも彼が言っていることの大まかな事は理解する事はできるし、言っていることは間違っているような気がしない。トトはただ真実を語っている。そう思えて仕方なかった。
「まぁ、それでも完全に理解できないのであれば、もっと単純に分かりやすい方法がある。そこの窓から外を見てみな。それで理解できないんだったら俺はもうお前に語る言葉は無いし、お前にこの世界は合わなかったってことだ」
 トトはそう言って私を視線でそちらに向けようと促した。方向で言えばそちらは左、丁度机が左の方に寄せてあったおかげですぐそこに窓があった。当然、そこからは外の景色がのぞける。私はどうして今までそちらに視線を送らなかったのか今になって疑問に思ったが、それほど私に余裕がなかったことなんだろうと思う。不思議な雰囲気を漂わせる創介に、おしゃべりなトト。彼らに私の余裕が完全に失わされていたからなんだろう。
「……っ!」
 外を覗いた瞬間、私は何度も自分の目を疑い、そして絶句した。もしかしたら私は何か夢を見てるんじゃないかと思えるほど、そこに映った光景は非現実的であり、それでいて素晴らしかった。
 まず一番初めに目に止まったのは、目の前に広がる壁。正確には家が積み上がって出来た巨大な壁だ。もちろん屋根なんてものは無く、一見すると超巨大なマンションのようにも見えたが、それらは碁盤の目のように綺麗に並んでいるわけでは無く、形は様々であり大きなものから小さなものまでそろっている。それなのにそれぞれは独立していながら隙間を殆ど埋めるように横に上に並べられている様は本当に幻想的なものだった。
 一体どうして家が積み上がっているのに下の方は潰れないのかとよく目を凝らして見てみると、どうやら正確にはその家々は巨大な建物などの建設に用いられる鉄の足場のようなモノの上に置かれていて、それらが家を支えているようであった。ただ柱は家と家の間に隠れるように配置されているためにはっきりと鉄の足場があるだとは分かりにくいようになっている。
 さらに驚くべきことに、今自分がいるこの家もその壁の一部になっているようで、横を覗いてみるとこちら側も鉄製の板で支えられた地面の上に家が置かれていた。
 つまり、目の前の光景を総じてみると、空間の間を壁が挟んでいると言った感じである。おまけにその空間の幅は三十メートルほどしかなく、簡単に向こう側に行き来できるような距離になっているのはいいのだが、便利にしたいがために空間の間にはあみだくじのように向こう側とをつなぐ鉄の橋が、しかも手すりと足場のみという簡易的なものが張り巡らされているせいで割と景観をぶち壊していた。
 ただ不思議なのは、たった三十メートルしか幅が無いのにもかかわらず、太陽の光はその間を通って壁全体を照らしている所だった。ここまでの幅だと季節によって全く太陽の当たらない場所とか出てきそうなのだが、現在は計算されつくされていると言わんばかりに丁度均等に太陽の光が照らしていた。
「………すごい」
 私は目の前の光景に圧倒されながらも感動と歓喜のあまり殆ど声を出すことができなかった。ただ「すごい」と三文字を言うことがやっとでそれ以上は声を出すべきでないような気がした。何か口に出してしまうと、今目の前にある景色を穢してしまいそうだったから。
 だた、あくまでそれはその光景を見たことのない私の主観的考え方なわけで、この幻想的な世界を日常の一部になるまで見てきたであろう創介たちは私ほどその景色の雰囲気を大事にしていない。トトにいたっては私の感動を邪魔するように口を挟んできた。
「どうだ?これで分かっただろ。今お前がいる場所は少なくともお前のいた世界じゃないわけで、お前の持っている常識は通用するはずもないってことが」
 私はその言葉で気分を害しながらトトの方に顔を向ける。
「ま、まあ……そうだね」
 それでも、口から出てくる言葉はそんなものでしかなかった。私の感情がまだ感動で満たされている間は口応えする程の余裕はなかった。
「改めて紹介するが、これが俺たち《創生者》の住む世界。『創生者の街(メイカーズタウン)』だ。まぁ、読んで字の如くだが、命名したのも俺だし割とテキトーに付けたからその辺の突っ込みは受け付けてないからな」
 トトの話を横耳で聞きながら私は今すぐにでも外に出たい気分に陥っていった。今外の世界をこの体で感じることができたらどれだけ素晴らしいだろうと思った。今まで自分が味わってきた空気感とは全く別の種類の、それでいて私の中で過去最高の雰囲気を味わえると思った。もし今ここにもう一人の私がいたら何考えてるんだ、お前のするべきことはそこじゃ無いだろと言うだろうけど、今の私はそんなに冷静にはなれなかった。心を動かされると言うのはまさしくこの感覚だろうと、私は実感した。
 一瞬、外に出ようと足を動かそうとすると、その前にトトが私の行動を止めるように口を開く。
「んじゃあ、とりあえずこの街の事を理解してもらったわけだが、俺からも一つ教えてほしい事がある。いいだろ?」
「………え」
 急に声の調子が下がったせいで私は反射的に身構えてしまった。とても軽い性格だと思っていたのに、私の中で生まれた考えが根本から崩壊させられた気分だった。
 そして、軽く私を睨みながらトトは言う。

「どうやってここに来た?」

 その言葉は、私の気分を害したなんてものじゃ無かった。頑張って積み上げたレンガの塔を一瞬で崩壊させられた時の気分に似た、絶望の淵に立たされたような気分になった。
「ど、どうって言われても、そんなの私だって知りたいよ」
 本心で、そう思っていた。なぜ自分はここに来たのか、どんな方法が使われたのか、この世界に来たと自覚した時に感じた思いをそのまま口にした。
 でも、トトはそんな私に若干キレ気味で言い放つ。
「んな、原因が分からないわけないだろ?結果なんてもんは原因が積み重なって生まれるもんなんだから、せめて何かいつもと違ったことが起きたとか、ここに来たと実感した瞬間の状況とか、根拠になりそうなものがあるはずだろ。それとも、こんな短時間で大事な事を忘れちまうほどお前の記憶力は低いのか?」
 相変わらず鼻につく言い方をするトトだったが、そんなこと気にしてられそうにもなかった。創介の方に目をやっても、彼は私とトトのやりとりを理解しているのかしていないのかよく分からない雰囲気で机を挟んだ向こう側に座って私たちを見つめたまま、未だに特に口を挟もうなどしてこなかった。
 何か、何か言わなくちゃいけないと思って私は自分の記憶をさかのぼらせながらどうにかして思い出そうとする。しかし、人の記憶というものは時間を追って思い出すことなんてできず、断片的な思い出し方に頼るしかなかった。下手をしたらトトの言う通り、自分の記憶力の低さを露呈する事になるだろう。本当はそんなことないのに、焦れば焦るほど何も頭に浮かんでこない。それでもトトから酷い罵倒を受ける結果になることだけはどうしても避けたい思いは合って何とか絞り出す。
「……根拠になりそうなものって言ったら、すっごい高いところから落ちてきたことくらいだよ。後はいつもと殆ど変わらないし、何も不思議な事は起こってないはず」
「…………………」
 私がそう言うと、今度は急に黙ってしまった。「そんな程度しか分からねえのか!」だなんて言われると思ったから少し安心したけど、心なしか、トトの表情が曇ったような気がするのだが、何せトトは鳥なのだから表情があるなんてよくわからないし、私の気のせいなのかもしれない。
 すると、トトは創介をチラと見てから口を開いた。
「こりゃあ、めんどくせぇ奴に絡まれたな」
「………?」
 首をかしげる私をよそにしてトトは創介に窓を開けるように嘴を使って促す。
「お前がここに来た原因が何となく分かったが、そいつが今どこにいるのか全く把握できていないから俺が探してくる。少し待っていろ」
 トトはそう吐き捨ててさっさと窓から部屋を飛び出して言った。それから彼はその黒い体からこれまた黒い翼をはばたかせて外の壁の間の空気を切り裂くように飛び去っていった。彼の飛んだ奇跡を残すように真っ黒な羽が数本外の世界を泳いでいる。
 具体的な事を何も知らされないまま勝手に飛んで行ってしまって私は置き去りにされたような感覚を覚えた。
 これから私はトトの到着まで一体何をすべきでどう過ごせばいいのだろうか。私がこの世界にどうしてやってきてしまったのだと言うことを自分なりに考えるべきなのだろうか。トトの言った通り何か思い出せることがあればいいのだが、どうにも思い当たる節が全く見当たらない。
 元の世界にいたとき、この世界に入ってしまった直前の私は自分の街を自分の足で、自分の感情に任せて駆けていた。わき目も振らず、自分の憤怒の感情を振り払いながら足に力を込めて、走り続けていた。もしかしたら、その時何者かにすれ違ったのだろうか。普段と違う何者かに接触してしまったのだろうか。
 もしそのことが原因だとしたら、私は元の世界に無事に帰れるのだろうか。
 トトは原因が分かったようなそぶりを見せてくれたが、それはあくまで原因が発覚しただけで、誰も私が元の世界に戻れるだなんて口にはしていない。
 私というのは本当にバカな生き物で、何も難しい事を考えてなければ幸せなままだったのに、余計な想像をしたせいで急に不安になってきてしまった。トトがこの世界でどんな立ち位置にいるのか私には分からないが、それでも誰がどう見ても鳥なのだ。真っ黒な、他の色に染まりそうにない鳥なのだ。そんなたった一羽の鳥がどうやってその原因の人を連れてくるのだろうか。もしかしたら向こうで何かされて、ニ度と帰ってこないんじゃないか。もしそうだったとしたら私は一生この世界の住人として暮らさなくちゃいけないのか。
 ふと、私は向かいに座っている創介に目をやった。初めは彼は何を考えているのだろうかと探りを入れるつもりだった。
 けど、彼は私と目が合うなりにこりと笑顔を向けてきた。
「……っ!」
 ヤバい……。一瞬不覚にもドキッとしてしまった……。
 彼の整った、しかし童顔な顔立ちは異様な雰囲気を放つ白黒の髪の毛と妙にマッチしていて、街中を歩いていたら百人中九十九人は振り向くんじゃないかと思えるくらいの美貌を持ち合わせている。よく見たらちょっとしたコンプレックスもあるかもしれないけど、少なくとも私の好みのタイプな気がして……。
 ――駄目だ、意識し始めたら急に恥ずかしくなってきちゃった。
 よくよく考えてみたらこの部屋という空間には私と創介の二人しかいない。用は男と女が二人きりで一つの部屋にいるのだ。危険な空気が漂ってしょうがないじゃないか。
「ところで……さ」
「ひ、ひゃあい!」
 先ほどまで真面目な事を考えていたのに急に変な思考が働いて頭の中がぐちゃぐちゃになっている所で急に話しかけてくるものだから変な声が出てきてしまった。創介もそれには少し驚きを見せたが、かまわず続けた。
「さっき僕に何か聞きたいことがあるって言っていたよね。なんだった?」
「………さっき?」
「ほら、キミが急にタンスから出て少し経った後に自己紹介したときだよ。僕が話を制止させちゃったようで悪かったなって思ってさ」
「………あ」
 確かに聞きたいことがあると言った覚えがある。でも、その時に聞きたい事はここはどこだと言ったような、特別なことでもなくかなり平凡な質問であって、もうトトが全部話してくれたおかげで私の用件はもう済んでいた。
 ――だったら、いい機会だし別のことでも聞いてみようかな。
 とは思ってもいざ何か質問を考えたってそう簡単には出てくるわけでもなく、出てきたとしても流石にそれは無いだろと勝手に自分で切り捨てているせいで一向に口を開くことができない。誰だってそうだろう。初対面の相手にいきなり何か質問してみろと言われたって、相手がどんな性格かで質問の内容も変わっていく。ノリのいい相手だったらそれなりに砕けたことが聞けるだろうし、逆に真面目で誠実そうな相手だったらもっと固い事しか聞けないだろう。でも私の目の前にいる『夢想創介』はいまいち掴みどころが分からず、それでいてさっきからニコニコ笑顔(ほぼ微笑)を浮かべている人間に対して、何を聞けばいいのだろうか。
――〈どうしてそんなにニコニコしているのですか?〉いやいやそれは地雷を踏むことにつながりそう……。
――〈いくつですか?〉普通すぎる!それにそれを知ったところで何になるっていうんだよ!
――〈彼女さんとかいるんですか?〉無理無理無理!初対面で突っ込み過ぎるだろ!
……やっぱり何も聞けない。仕方なく断念するしかなかった。
「い、いえ、別になんてことなかったんです……」
「本当にそうかい?別に何だっていいんだよ。この街のこととか、この店のこととか、僕のこととか。まだキミには知らない事がいっぱいあると思うし、それらを『記憶』してくれたら僕はうれしいけどな」
 ……そのとき、私は彼の発言に疑問を持った。何か、妙な回りくどさを感じたのだ。
 トトの時も少し思っていたことがあった。確かトトは自分の二つ名を『ラングイッジ』と言っていた。《言葉の創生者》。確かに『言語』という意味の英語でlungageという言葉がある。読みはそのままだし、適当に名付けたような感じがする。けど、本当に彼が『言語』と深いかかわりがあるとするならば、彼が異様におしゃべりな所も分からなくもない。初めはうっとおしいくらいに思っていたのに、そう考えると合点がいく。
 だとしたら、創介は一体その創生者(メイカー)の枠組みの中では何に当てはまるのだろうか。
 それを知ったところで何にもならないだなんて分かっているけど、これだけは私の好奇心を押さえ切れなかった。
「じ、じゃあ一つだけ……。あなたは一体何者なんですか?」
「………?」
 創介は、私の質問に軽く首をかしげた。意味が分からないと言うよりかはどういうつもりで聞いているのかが分からないと言ったようであった。
 その時、私は自分の発言の誤りに気付く。これではいかにも相手を信用していなくて警戒心バリバリの人が言う言葉ではないか。
「あっ……!いや、その、別にそんなつもりじゃ無くて、ただ、その……、トトは自分を『ラングイッジ』だなんて言っていたから……、あなたはなんて呼ばれているのかなって……本当にそれだけです。悪気があったなんて訳じゃなくて……」
 自分でも何を言っているのか分からなかったがそれでも何か弁解をしなくてはならないと言う思考だけは働いているようで勝手に口が動く。
「ああ、そういうことか」
 そう言うと彼はまた私に頬笑み返してきた。後半が彼の耳に届いているのかは疑問だったけど、そんな優しい表情を浮かべられると私は余計に目を合わせることができなくなる。
 そして、言葉を続ける。
「まだそこの紹介はしていなかったね。僕は『メモリー』だなんて呼ばれることもある。その理由ってのが、僕が《記憶の創生者》であるところが由来しているんだ。と言っても別に記憶人の記憶を勝手に作って相手に埋め込むとか逆に記憶を破壊してしまうとかそういうわけじゃなくて、ただその対象とする人の記憶を取り戻してあげることくらいしかできないけどね。……これでいいかな?」
 ――やっぱり、創介は記憶ってことか……。ん?でもちょっと待って……。
 私は、また新たな疑問を思い浮かべた。これに限っては別に相手に失礼とかそんな変な気は使わなくていい様な気がして、すぐに口に出してしまった。
「さっき、私は『タンス』から出てきたって言っていたけど……あれ、クローゼットっていいますよ?」
 もし、本当に『メモリー』たるものであるのならこんな些細なことを記憶違いだなんて言うことは無いだろう。ただ単純に言葉を間違えたとしか思えなかったのだが……。
 その私の言葉に対する返答は私の予想と大きく外れ、それは意外なものであった。
「……『クローゼット』って、なに?」
「……はい?」

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