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【創成者の街】プロローグ『創成者の街』 その3
 初めのうちは創介にからかわれているのだと思った。見た目私よりも少しくらい年上の男が『クローゼット』のことを全く知らないで、しかもそれを『タンス』と勘違いして今まで使ってきたなんて誰がそんな状況になったとしても同じようにそう思うだろう。どおりで私がクローゼットから飛びだしたときに服と一緒になだれ落ちることができたんだ。本来の使い方をすれば服の山におぼれることなんてなかったのだから、ひょっとすると『ハンガー』すら使ってない事になる。
 馬鹿にするつもりじゃないけど、ハンガーもクローゼットも知らないなんて信じられない。
「ひょっとしてからかってませんか?」
 だから直接聞いてみようと口を開いた。しかし、創介の表情はトトのように冗談に引っかかった人をにやにやして笑っているようなものではなかった。
 それどころか、新しい発見を自分で見つけた子供のように目を輝かせて私の両肩を掴んできた。私は「ひゃい!」だなんて言って反射的に飛びあがりそうになる。
「そ、それ聞いたことない言葉なんだけど、く、『クローゼット』だっけ?トトからも教えてもらったことないし、詳しく教えてよ!」
 先ほどの落ち着いた雰囲気とは打って変わって人が変わったように私にすがってくる創介を見て私は妙な恐怖を覚えた。人ってここまで急に変われるものなのだろうか。
 純粋さが強いだけに、悪気が無い事はよくわかっていても余計にタチが悪いものに見えて仕方なかった。
 ――なんで!なんでこんなに迫られてるの!
「ま、ままま待って!わ、分かったからさ、と、とと、とにかく落ち着いてよ!」
 思わず私は創介をど突いてしまった。私は軽く押したつもりなのにその時の感触は全く抵抗が無くて、マネキンでももう少し抵抗感があるはずなのに、それ以上に軽すぎていた。
 当然、そんな感触なものだから、創介はいとも簡単に尻餅をつくことになる。
「え………、あ、ご、ごめんなさい!わ、私そんなつもりじゃ無くて」
 予想外の結果が起こってしまったせいで私は同様のしすぎで、自分の行動について謝らなくちゃいけないはずなのにそんな事をそっちのけにしてしまった。そしてすぐさま創介の手を掴んで引っ張り上げるが、これもまた簡単に持ち上がってしまった。
別に私は特別怪力の持ち主とかそんな人間では無い。いたって普通の女子高校生だ。握力だって体力テストで全国平均をわずかに下回る程度だ。なのに、これまた落し物を拾い上げるような感覚で創介を軽く持ち上げてしまった。もう一度言う。私は決して怪力女ではない。
「………その、すいません」
「いや、いいよ……。僕も急に取り乱したりしてゴメン……」
 そう言いながら創介はばつが悪そうに私から視線をそらす。今までずっと私の目を見て話してきた創介らしくなくて不思議に思ったけど、どうやらその態度はどこか恥ずかしさを紛らわしているように見えた。
 そうしていると、自然と創介は口を開いた。
「いつもトトに言われているんだ。『少しは体を鍛えたらどうだ』って。普段殆ど僕は外に出ないから体力つけていかないとこれから先恥ずかしい思いをするぞって……。今朝も言われたんだけど、まさかと思っていたらこんな形で思い知らされるとは思わなかった……」
 そう言ってまた恥ずかしそうに今度は自分の髪の毛をかきむしり始めた。彼の指の間から白黒の髪の毛が見え、行ったり来たりしている。心なしか、顔も赤くなっているような気がした。
「ぷ、あっはははは」
 そんな彼の様子が本当に幼い子供のように見えて、私は急に可笑しくなってきて思わず笑ってしまった。創介のことなんか全く気にせずに体の緊張が全部ほぐれるように大声で笑い始めた。
「わ、笑わなくたっていいじゃないか」
 創介はさらに顔を赤くする。本当に子供みたいだ。純粋で、どこも濁っていない、私には到底真似できない青年がそこにいて、本当に羨ましく思えた。
 そして、こんな感覚は本当に久しぶりだった。

「それで、『クローゼット』だけど……」
 少し時間が経って落ちついたところで私は創介にようやく説明を始める。もちろん私と創介は二人で私の身長よりふた回りも大きいクローゼットの前に立っている。
「とりあえず用途は服を入れることなんだけど、これは『タンス』と違ってもっと大きいんだ。『タンス』は私の身長よりも普通はもう少し小さくて、大体私の肩の下くらいしかないの」
 しばらく前に保健室で身長をはかったときは丁度百六十くらいしかなかったので大体合っていると思う。それを考えると創介は目測りでおよそ百七十くらいだろうか。会話するときに顔をわずかに上に向けなきゃいけないから何となく負けた気分になる。まぁ、背の高すぎる女性はあまり好まれないとは聞くが……。
「つまり、今まで僕が言っていた『タンス』はこれじゃないってことになるの?じゃあ『タンス』ってどんな形しているの?」
 私のそんな思いも全く気付いていないまま――気付く方が無理あるけど――創介は首の角度を若干下に下げている。うう、悔しい。
「た、タンスって言うのはね、言うなれば四角い箱の中にもう少し小さな箱が横に何個か収納されていて、その一回り小さな箱の中に服とかを収納するための家具なの。ほら、クローゼットの下の方に小さな引き出しがあるでしょ?これがいくつも層になっている形をしているの。……何となく分かるかな?」
「……うーん。イメージは何となく湧いたけど、正直まだちょっとよく分からないかな」
「う、うう……」
 無理もないだろう。ただでさえ語彙力も表現力もない私が、他人が存在自体知らない物をその人に説明するなんて無謀にも程がある。私もトトに《創生者》の説明をされたのに未だによくわかっていないのだから、創介に家具の解説をしようとすることさえ間違っているのだ。
 そんな事は自分でも分かっているけど、いざ自覚してみるとやっぱり少しショックだ。ただ、それでも分からないと言うことをハッキリと私に言ってくれるのは、気を遣われて無理に頷かれるよりも私にとっては良かった。変に気を遣わない仲だと認めてくれているようで。
「でも、トトにも聞かされたことのない言葉だからまた今度トトにも聞いてみるよ。何か分かるかもしれないし」
 ……だとしても結局創介はトトに頼るわけで、私よりトトのような鳥の方が優れているのだと宣告されているようで私はさらに落ち込んだ。あのただ口が悪いだけの鳥に負けていると自覚すると、何となく悲しくなってきた。
 しかも、そう言う時に限って泣きを見ることは続くものなのだ。
「『元来タンスとは日本の古典的な家具の名称であり、現在では和箪笥とも呼ばれている。和箪笥には、両脇に棹通し金具が付けられており、長持と同様に、棹を通して持ち運べるようになっている。衣類や道具を収納するための、引き出しや扉を供えた家具で、通常木製であり一人では持ち運べない大型のものが多い』……お前が知らないんじゃなくて覚えてないだけなんだろうが」
「トト!」
 いつから話を聞いていたのか、トトは出ていった窓の桟にいつの間にか降り立っていた。景色に対して保護色でも無い目立ちやすいその黒い体に気付かなかったのは、その窓が私の真後ろにあったせいだ。
 しかし、だ。私は今トトと私の実力の差に落ち込んでいたと言うのに、本人が現れたとなると、神様の悪戯にしちゃあやりすぎじゃないかと思えてしまう。泣きっ面に蜂とはまさにこのことだ。
「ようやく連れてこれたぜ。案外近場にいたみたいで探すのだけは苦労しなかったんだが……、もう少し経ったらそこの玄関から出てくるぜ」
 トトも、そんな私の意中など全く気にせずに私に告げる。言葉の中間の妙な間に少し疑問が残ったが、私は大して気にすることはせずに、その相手を待った。
彼は、すぐに部屋の中に入ってきた。私が見つめる先にあるドアが勢いよく開いた。おそらくぶっきらぼうにも蹴り開けたんだろう。
「うーす。久しぶりだなぁ、創介」
「……なんだキミか。元気そうで何よりだよ」
 そんな二人の当たり障りのない会話の中で、私は目を見開いていた。今日で一番驚いたんじゃないかと思う。
 と言うのも、この部屋の中に入ってきた相手が、双子だと思えるほど顔がそっくりだったのだ。世界に少なくとも三人は自分と似た顔を持つ人間がいると言われているが、それを踏まえても二人は本当に自分の目を疑うほどに似すぎていた。
 格好は決して似ているわけではない。創介はワイシャツに黒ズボンといったまるで私の通っている高校の夏の制服と思えるような格好をしているが、今入ってきた男は青いつなぎを着て肘まで袖口をまくって、鍛えていることが一目で分かるほどがっしりとした腕をあらわにしている。そしてこれまた青色のツバ付きの帽子を深くかぶっており目元は若干隠れているが全く見えないわけでは無く、時折りチラチラとその黒い瞳を私に向けてくる。自分の愛用品なのか知らないがモップが彼の肩に掛けられている所を見ると、掃除員のような風貌に見える。
 特徴を挙げれば確かに顔つきだけが似ていると言うだけなのだが、創介の顔つきは妙な魅力を持っていると言うのに入ってきた男の顔つきを見ても全く何も感じないと言うのは本当に不思議に思える。それに創介が微笑を浮かべているのに対して、その男の表情は創介に比べて豊かであり、肩頬を挙げていやらしい含み笑いを浮かべているのに目は全く笑っていないと言った複雑な面差しができていた。
 当然、私はその男に出来る限りの警戒心を持った。この男は確かにいろいろと危険な男なんじゃないかといったのが私の第一印象だ。
「それで、用件はなんだっけ?そこの彼女を元の世界に戻してやれだっけ?」
「ああ、その通りだ。いくら束縛が緩いったってやっていい事とまずいことがあるってことくらい自覚しているだろうに、めんどくさい事をやってくれたな。本当にお前はよ」
「はは、まあ俺にもいろいろと考えがあるってことよ。その辺はお前らには理解できない事だろうからあえて口には出さないけど、とにかく自分で起こした不始末は自分で片付けろってわけだな」
 心なしかトトが少しいらだっているような気がして新鮮味を持ったけど、男の方は全く持ってその事に悪気が無い様な面持ちで軽くトトの言葉を受け流している。このやりとりを見て彼らはそれなりの知り合いなのだろう。
「んじゃまあ、さっさと終わらせようか。俺だってそんなに暇じゃねえんだ」
「めんどくさいことになったのはお前が原因だろうが!」
 ――ああ、こりゃあ完全にいらだっているわ。
 トトは歯ぎしりを立てながらその男を睨みつけている。ん?鳥に歯なんてあったっけ?
 その男はまたしてもトトの感情を無視して私の前に立った。表情は相変わらずでそれが私にちょっとした恐怖心を与え、持っていた警戒心をさらに強めることになった。
「あ、あなたは………何者なんですか?もしかして、その、《創生者》とか言われる人と同じ部類の人なのですか……?」
 恐る恐る私は訪ねて見る。見ず知らずの人に何かされてこの世界に飛ばされ、見ず知らずのまま終わらされるのはどうにも理不尽だ。少なくとも身分証明くらいしてほしいものだ。しかも場合によっちゃあ『終わらせる』という意味が私にとって覚悟を決めさせられることにもつながらなくもない。だからこそ聞かざるを得なかった。
 男は、私の言葉を聞いて表情を緩めた。私が口を開いたのが心外だと言わんばかりに両眉を上げ、きょとんとする。
「何者って言われてもなぁ……。お前からして分かりやすく言えば、物事は何でも例外って物がつくのは分かるだろ?それがルールがガチガチに固まれば固まるほど余計に例外は現れるわけで、俺は丁度その部類に含まれるって訳だ」
「……つまりあなたはこの世界において、例外の人ってことですか?」
「まあ、そう言うことだな。難しい話はあんまりできないのと、割と俺は秘密なことが多い不思議人間だからあんまり秘密は明かしたくないんだ。おわかり?」
 私は、戸惑いながらも頷く。実際はっきりと理解しているわけじゃ無かったけど、それでも頷いてしまうのは自分の悪い癖だと理解しているけど、それ以上突っ込むことはできなかった。そもそも、彼の話からして聞いたとしてもうまい具合にかわされそうだが。
「まあ、名前くらいは言ってもいいか。俺は『掃浄龍之介(そうじょう りゅうのすけ)』まあ、大して珍しい名前でもないだろ」
「龍之介……ね」
 私はもう一度自分の言葉で彼の名前を噛みしめる。創介と龍之介。語感が似ているところはやはり似たものだからということなのだろうか。差だそれが必然なのか偶然なのかは定かでないのは明らかだった。
「さて、それじゃあ用件は済んだかい?『桜月弥生』さん」
 彼はもう一度不敵な笑みを浮かべて私にそう言った。瞬間私はすぐに龍之介に聞いた。
「あれ、私あなたに名前を言ったことありましたか?」
 突然私の口からその言葉が出てきたのは彼と会ってからずっと警戒心を持ち続けていたからだろう。どこかで必ずへまをやらかすだろうと頭の隅でそう思っていたからだ。
 しかし、龍之介はそんな私の突っ込みにも大した動揺も見せない。まるで当然と言ったかのような表情で、
「言ったことはないはずだが?」
 龍之介は肩に担いでいたモップを手で遊ばせながら地面に下ろす。その様は黒いステッキを持った老紳士に見えた。
「今ここで初めて顔を合わせた相手がどうして俺がお前の名前を知っているのかってのは当然の疑問だろうな。まあでも、答えは簡単。それは俺があらかじめお前の名前を把握していたからなんだね」
「………?答えが答えになってないような気がするんですが……」
 龍之介の言い方はつまり、一たす一がニになる理由が一と一を足したらニになるんだと言っているようなもので、証明する事柄を仮定のままで証明したようなモノなのだ。当然、そんな事で答えになるわけがない。
 しかし、そんな疑問を持ったのも承知の上といった顔で龍之介は話を続ける。
「人の目ってのは風景を風景で捉える力が本当に強いと思う。まあ、そうでもしなければ世の中にはピントの概念だって無くなるだろうし、全てがはっきり見えるようになると気持ち悪い気もするね。だったらしょうが無いって言えるか」
「……??」
 答えに触れそうで触れないような、曖昧な言葉ばかりつなげている龍之介を見て歯がゆい気持ちになってまた訪ねようと思ったら、
「ああ、そう言うことか」
 と、窓にいたトトが不意に口を開いた。私はトトに答えを求めようとそちらに顔を向けると彼はすぐに答えてくれた。
「つまりは、お前等はすでに合ったことがあるって訳だ」
「そそ、御名答」
「??」
 もしここが漫画の世界であったなら私の頭上にはクエスチョンマークが乱立してコマを埋め尽くしていただろう。トトの言い方もまた回りくどくて単純な私の頭では理解が追い付いていなかった。
 ただ、トトの方がまだ優しくて、私の知りたい答えはちゃんと伝えてくれるところだ。
「向こうの世界があっただろう?そこでお前等はすでに顔を合わせているんだ。ただそれがいつ、どんな状況だったかってのは俺も知らねえけど、少なくともお前は何かに集中していて周りが見えていなくて、一方で龍之介ははっきりとお前の顔を見たってわけだ。だからお前からしたら龍之介の存在もただの背景になっているってこと」
 ああ、なるほどだから龍之介はあんな妙な言い方をしたのかと私は納得したが、それでも分からない事がある。
「それが、私の名前を知っていることと何か関係があるんですか?」
「それはもっと単純明快。何か落し物がありませんでしたかねえ?」
 龍之介は自分のポケットから一枚の布を取り出した。空気の抵抗を受けてひらひらと舞う所を見るとそれはとても軽いものであることはすぐに分かる。
 よく見るとそれは私のハンカチだった。小さいころからずっと使っていたせいでまだ自分の名前が入ったままになっているものだ。
「な、なんて回りくどい………。ってわぁ!」
 私が茫然とすると、今度は龍之介が不意に巨大な布をかぶせてきた。私の体を全部包み込める程の大きさの布である所を見ると、持参して来たものだろうか。
「な、何をするんですか!」
「まぁじっとしておいてよ。閉所を創り出さなきゃいけないんだからさ」
「へ、閉所って急に言われても――」
 刹那、急に体の五感が一気に消え去った。
 音も消え、布が被さっているはずなのに、その感触も消え、布から透けていた明かりも完全に消え、世界は黒の絵の具をぶちまけたかのように真っ黒に染まってしまった。
(え、な、なに……これ……ってあれ?)
 戸惑いを示すかのように口を開いたはずなのに、声が出ない。音が耳に届いていないだけなのかもしれないが、それにしては喉が振動しているように感じることができなかった。
(ど、どど、どういうこと!さっき龍之介は「終わらせる」だなんて言ってたけど、まさかそれって死……)
 そうしてパニックに陥りそうになった瞬間、今度は一気に体の五感がぶり返してきた。
 音は聞こえる。触覚も確かにある。太陽の光も目ではっきりと伝わってくる。
「え……あれ……?」
 言葉も確かに話せる。しっかりと耳に届く。あの暗闇の世界に行く前の状態にちゃんと戻っていた。
 ただその時と違うのは、目の前に広がる光景が創介やトトのいる殺風景な室内では無かった。
 はっきりと分かる。ここは自分が今まで住んでいた世界だった。自分の生きている街だった。

 こうして、突飛に訪れた不思議な世界は、突飛なまま終わりを告げることになった。

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