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【創成者の街】第一話『memory』その1
 太陽が本日の役目を果たして休憩に入ったころ、私は一人で自分の部屋でずっと頭を抱えていた。かがみを見れば、自分の顔が熟したリンゴのように赤く染まっていることが分かる。
 いくら感情に身を任せたとは言え、まだ身元など殆ど分かっていない男に体を預け、それでいて彼の方もそれを拒むことなく包み込んできた。この事実は純粋な私の心に大きな衝撃を与えている。
 恥ずかしい、とにかく恥ずかしかった。
 その男、『掃浄龍之介』は私の部屋にある壁に埋め込まれた形で設置された洋服タンスの奥を街との連絡通路にするために、彼の《掃除人》としての能力を使って境界を消去して、「先に行ってるから」と言って向こう側に姿を消していた。私はいちいちクローゼットと何かしらの宿命があるのかとふと思ってしまうが、それよりも彼が見せたその時の様子は、私を抱擁したことなど全く気にしていないようで、それが余計に私の羞恥心を暴走させるのだ。
 ごんっ!
 抱えていた両手の力を抜くと額が机に衝突した。痛みは後々に襲ってきたのに私はいちいちそれに反応する事はしない。羞恥心が勝っていて、体を動かす気になれない。
 ――どんな顔をして会いに行けばいいの……。
 私は、深い深いため息をついた。体中に溜まった感情を一気に吐き出すつもりでいつもよりも多く息を吸って、吐き出したはずだった。
 なのに、あのときの光景だけは私の脳裏にしがみついて離れようとしない。
 全てをはきだしたせいで、頭の中は余計にその光景を鮮明に映し出す。
 ごんっ、ごんっ!!
 ニヒット。もう一発強い衝撃を与えて記憶から抹消しようと思ったのだが、これ以上は額がもちそうにない。下手をすればたんこぶができてしまい余計に会わせる顔が無くなってしまう。
 仕方なく、私は自傷を止めた。
 かわりに今度は私は両手のひらで頬を叩いた。痛みを感じるか感じないかの微妙な境界で絶妙な力加減を加える。これは記憶を抹消するためでは無く、自分に気合を入れるためだ。
 ――いつまでもこんなところでウダウダやってたって何も始まらない。私は自分を変えるために街に行くんだ。
 一度では足りず、ニ度、三度と顔を連打し、合計七回の喝が私の顔を直撃する。最後は気合いが入りすぎて軽く目に指が入ってしまいそうになった。
「………よしっ!」
 声にも気合いを入れ、私は振り向いた。洋服タンスを越えれば、そこには龍之介やさまざまな人がいる《創生者の街》にたどり着く。
 その事実を頭の中で何度もループさせ、気持ちを落ち着かせる。
 ためらいもニ、三度起こしたが、私はそれを振り払って足を踏み入れた。
 一瞬体中の感覚がリセットされ、瞬間的に再起動される。
 一度だけ感じたことのある空気感が、私の体を覆った。

――私は、《創生者の街》にたどり着く。

 私の体の五感が戻ってきたときには、私は生け垣の陰の前に体を伏せていた。
 場所は、滑り台やジャングルジムが所狭しと並んでいる小さな公園だった。私が見たことのある街の景色は家の積み重なった壁の景色しか思い出せなかったが、左右を見上げてみるとやはりそこには壁がそびえたっている。
 そのことで気がついた。私は街の一番下に来ていると。
 壁と壁に挟まれたその空間には区画分けのために背の高い金網がその施設を囲むように設置されており、その区画の間には幅三メートル程の連絡通路が整備されている。コンクリートで整備されているようでサイクリングにはもってこいといったような道になっていた。
 私の立っている場所はたまたま小さな公園をベースにした場所だったようで、他にはバスケットコートやバレーコート、貸出自転車の駐輪場まで存在していた。
 これだけを見ると、私のいた世界と対して変わらないと思った。
 ただ、まずいことに龍之介の姿が見当たらない。「先に行っている」とは言ったが何処で待ち合わせるとか何をするとか、そういった大事な事を全く聞いていない事を思い出した。
 ――ど、どうしよう……。
 とにかく何かしら行動に移さなければ永遠に今いる場所をさまようことになりかねない。私はとりあえず公園のその区画から外に出ることにした。
 そして、外にでて気付く。
 昨日初めて街に来たときは家で出来た壁と壁の間の空間を対して見つめることができなかったが、屋外に出ているせいで、奥まで見渡すことができた。この壁は一体どこまで続いているのだろうと、ふと疑問に思って横を向くと、それは見つかった。
「あ……ああ」
 壁の向こう側は、真っ黒に塗りつぶされていた。しかも、綺麗な水彩画で塗られた淡い絵画の上からパステルカラーの黒をぶちまけたようにその黒は異様なまでに目立っていた。その事実は私の認識を大きく変える。
 私の目に映ったそれは、『黒』という存在では無く『無』という概念だということだ。
 何かがあるとも無いとも、そういう判断すらその『無』は私にさせないようにしていた。
「あ………あ………ああ……」
 思わず声が漏れる。あまりに唐突な『無』は、その境界にある物体をトリミングすれば世界の崩壊がどのようなものかを差し示す素晴らしい資料にもなるだろう。それほどまでに完璧なまでの『無』であった。
 私の背中から冷や汗が吹き出し、心臓の鼓動も早まっていく。視界までブレ始めた。
 呼吸は乱れ、手は震え、足に力が入り辛くなってくる。
「あ、ああ……ああああ…………」
 ついに、完全に膝から崩れ落ちた。
 でも、瞬間私の背中は人の腕に支えられ、地面に衝突する事は無かった。
 そちらの方に目をやると、そこには龍之介の姿があった。
「あー、見ちまったか。まぁ、初めて見る奴はだいたいそんな反応だな」
 彼はいつも通りののんきな声で誰に言うでもなく言った。
「見ての通り、あっちはまだ何もない、『無』の世界が広がっている。あいつ等《創生者》や俺ら《掃除人》が全く手を加えていない空間が、ああいった完全な黒の世界になるって訳」
 龍之介の言葉が私の耳に届き、知り合いの声が私に安心感を引き起こしてくれたおかげで極端の動揺が少しずつ薄らいでいっていたが、まだうっとうしいほど手の震えは止まらない。
 あの黒を見た瞬間に急に体中に恐怖が覆った。なのに、自分ではその原因が全く分かっていない。理性を保てなくなった事を思えばただ単純に生物としての本能が働いただけのように思えたが、見た瞬間に黒から目を逸らそうとしなかったという事実を説明できない。
 この世界に来ると、たまに自分でも不思議に思う様な不可解な行動をとることがある。
 それは時間が経てば経つほど強く思うのだった。
「……少しは、落ち着いたか?」
 龍之介が優しく声をかける。
 私は小さく「はい」と頷いた。何とか自分の足でも立てるようになった。
 そこでもう一度確かめるように黒を見つめた。まだ背筋が凍るような思いをするが、先ほどまでの衝撃は無かった。
 ――『慣れ』……か。
 今度は、人間のその能力の方に軽い恐怖を覚えた。

「それで、今日は私は何をすればいいんですか?」
 街の一番下の層、区画間のサイクリングロードのように整備された道を私と龍之介は並んで歩いていた。
 運動用に設置された区画内では六、七歳程の小さな子供から十五歳程の自分とそこまで変わらない少年たちまでがそれぞれの遊びにいそしんでいる。そして、端の方で夫婦が二人並んで座って彼らの様子を遠くで眺めていた。
 その風景は、私のいた世界の公園の様子となんら変わり無く思えて、ふと街にいる事を忘れてしまうほど、見とれてしまった。
「ああ、まあ、結構人を選ぶ頼み事だからね。弥生だからこそ引きうけてくれると思うけど……」
 私の問いに、龍之介は歯切れの悪い言葉で返す。
 私はその様子を見て、見限られてるんじゃないかと思ってしまった。
「だ、大丈夫です!頼まれれば断ることは殆どしないのが私ですので!」
 人からの評価をつい気にしてしまう私は、空元気でも虚勢を龍之介に見せた。
 その様子を彼の目ではどう映ったのかは知らないが、それでも彼はにやりとうすら笑いを浮かべた。
 刹那、私の中で嫌な予感がモヤモヤと現れる。
「んじゃ、宜しく頼むね!」
 先ほどの歯切れの悪さとは打って変わって、ここぞとばかりに調子のよい声色を浮かべて彼は何処から出してきたのか私にデッキブラシとバケツ、それに雑巾とたわしの四点セットを瞬時に渡してきた。
「え、ち、ちょっと、これって……」
「そ、トイレ掃除。こっちとあっちとそっちのトイレを綺麗にしてもらう仕事」
 私は青ざめた。彼の指定した個所はただの小さな公衆トイレだったらよかったのに、区画分けされた中の一区画丸ごとトイレ専用に使われている場所の、しかも三か所をやらなければならないのだ。便器の数を数えると、一体いくつになるだろうか………。
「いやぁ~、流石の俺も女の子に頼むような仕事じゃ無いかなとずっと心配してたし、いざ引きうけてくれたとしても罪悪感とか生まれてきそうだったけど、キミのその様子を見れば安心して仕事を任せれそうだね」
 急に饒舌になる龍之介。口数の減る私。
 ここまで来て「いやだ」と断るわけにもいかなくて、結局私はそのままトイレ掃除をすることになってしまった。
 彼は「よろしくね~」などと言って逃げるようにその場を後にした。いや、『ように』ではなく、本当の意味で逃げていったのだ。
 私は、小さくため息をついた。
そして、落とした肩を無理矢理起こす。
――こんなところでくよくよしたってしょうがない。龍之介がいつ戻ってくるのか分からないし、今はトイレ掃除に集中しよう。
今度は、気合いを入れるための軽いため息をついた。
掃除は元々そこまで嫌いな仕事では無かったのも幸を奏したのだろうが、それ以上にこの街に来ると今まで以上に前向きになれる。
やはり周りの空気感に影響されるのだろうと自己完結して、まずは近くのトイレへと向かった。

トイレは、思った以上に綺麗に使ってくれているのと手入れがしっかりと行き届いているおかげで初見ではくる場所を間違えたかと思ったほど清潔感あふれる空間になっていた。外観も、中身も。
とりあえず、女子トイレからだと思っていつもの感覚で何気なく入っていった。
トイレの個室は八つほどあり、そのほとんどのドアが開け放しになっていたが、一番奥だけが鍵がかかっていた。
まいったなと私は思った。こういったときはどうするべきかを龍之介に聞き忘れていた。
無視して一番手前から掃除を始めてしまえばいいのだろうが、そうなったときにもし奥の個室から人が出てきたら気まずい雰囲気になるのは目に見えている。だからと言ってそのまま待っているのも時間がもったいないと思うが男子トイレから始めるのも背徳感があってできる事なら使いなれている女子トイレからやりたい。
デッキブラシの柄をわきに抱えながら顎に手を当てていると、長考しているうちにトイレの水が流れる音が聞こえた。
ああ、終わったんだと思ってホッとため息をつくと、違和感に気付いた。
鍵がかかっていると示すための表示が、いつの間にか赤から青に変わっていた。鍵を開ける音など全く聞こえていないのに、そこだけが変化していた。
そして、今度は自分の真後ろ、つまり洗面台の所に人の気配を感じて振り向いた。
物陰に残像を残すようにして、誰かが去っていくのを見た。肩からゆらゆらと揺れる長い髪の毛が私の唯一直視できたモノだった。
「……え?う、うそ。ちょっと待って……」
 思わず私はデッキブラシを捨てて人が出ていった方へと向かった。私の見間違えで無いならその人はまだそう遠くへは行っていないはず。
 気になったらすぐに行動へと移す自分の性格は度が過ぎればとんでもないことになるのは自覚しているけど、身にしみついた癖は中々消えることは無い。だから、その時の自分の行動はただその癖に従っただけ。
 なのに、目の前に映った光景は単純な癖だとは思えないほど逸脱していた。
「………あれ?……いない」
 区画整備をされている道に隠れる場所などない。それでないにしてもわざわざ人の目から隠れるようにして移動する理由が分からない。
 私の目に止まったふわふわ揺れる髪はどれだけ見回しても見つからず、殺風景な道路が続くばかりだった。
「………何だったんだろ」
 それはあの髪の毛にも言った言葉だが、それ以上に自分自身にもその言葉を投げかけた。
 
 掃除が終わるころには、街を照らし続けていた日がかなり傾いていていた。
 体中の関節が若干の悲鳴を上げているものの、清々しい気分に浸っているのは自分の中で達成感を噛みしめているからだろう。確かに龍之介の言う通り、掃除はし終わった後はずいぶんと気持ちのいい物だと実感できた。
 使用したデッキブラシとバケツと雑巾とたわし、その四点セットは私の座っているベンチの隅に並べて乾かしている。今まで遊んでいた人たちも帰り始めていたからベンチの使用方法には別段咎められる理由もなかった。誰も使用する気配がない。
 急に体中から疲れがどっと襲いかかる。今なら目を閉じればすぐにでも眠ることができるだろう。人間、完全な疲労感を味わった後はいつでも寝る準備ができるらしい。
 その法則に従って、私はスッと目を閉じた。瞳の奥から体が浮くような感覚を体験する。
 と、そのとき。
「おい……おい!」
 二度目の呼び声にようやく反応で来た私はうっすらした目でその声の方向へと目をやる。
 視線の先、真正面には蜜限り真っ黒な塊が浮いていることしか認識できなかった。
 それでも、声は私に語りかける。
「どうして、どうしてお前がここにいるんだ……」
 その声は、驚きというよりかは怒りを溜めこんだような、そんな曖昧な感情を含んでいるようだった。
 少しずつ意識は覚醒していき、私はその塊を注視した。
「と、トト……?」
 彼よりも、私の方がずいぶんと驚きを隠せないようだった。何やら今日はいろんな人と出会うものだが、彼に至ってはその内に溜めている感情の事を察してみると一番あってはいけない相手のように感じてしまう。
「お前、向こうに行ったんじゃなかったのか……?」
「あ、そ、その、向こうで龍之介と会って、話せば長くなるんだけど」
 私が『龍之介』という名を発した瞬間に、トトの顔色が一瞬にして変わった。
「いま……、『龍之介』って言ったか?」
 声色も低くなり、彼の言葉が重々しく私にのしかかってくる。自分ではまずいことは何一つ言った覚えは無いのだが、どうにもそうではないらしい。
 私は彼の問いに素直に頷く。
 すると、彼は軽く舌打ちをして私に告げた。
「ったく、お前はあれか?『他人の言うことには素直に従っちゃう人』か?他人を疑ったことも無けりゃあ従って失敗した経験もない、右に習えの人間か?」
 彼は自分の翼をはばたかせ、私の前眼に顔を近づけてきた。黒い鳥である彼の顔を間近で見るとかなりの迫力がある。
「俺がお前の前にアイツを連れてきたときに何も思わなかったのかよ。少なくとも『掃浄龍之介』は俺に嫌われてるってよ」
「そ、そんなこと言われても……」
 確かに初めは警戒心を持っていなかったかと言うとそれは嘘であるが、だからと言ってずっと疑心を持ち合わせていたかと言えばそうでもなかった。
龍之介の容姿が創介に似ていること。彼の物言い。そして会議室での出来事。
思い返せばもうその辺りで私の疑いの気持ちは完全に晴れていたようだった。
 私のハッキリとしない態度にやけが差してトトはため息をつき、吐き捨てるように私に言う。
「仕方ねえな。今日はとりあえず創介の所に案内してやる。本来ならお前をすぐにでも返してやりたいところだが、何しろ『見つかる』とやべえからな……。かくまってやれるところと言ったらそこくらいしかない」
「み、『見つかる』って、誰に?」
 私のその問いは彼の耳に届かず虚空に消えた。私を無視してそのまま飛び去ろうとする。
 ――ついて来いってこと!?
 ちょっと待ってなんて言おうとも思ったが、どうせトトは私の言葉には耳を傾けてくれないだろうと思って、そのまま付いて行くことにした。

 トトの飛行速度は思ったよりも速く、私が走って追いかけてもなかなか追いつけるものではなかった。鳥と人間なら鳥のが速いのは至極当然の結果だが、それを見越したうえで彼は付いてこいといったものと判断しててっきり私のペースに合わせてくれると思ったのに、そんな優しさなど微塵も彼からは感じられなかった。
 しかし、創介の家はずいぶんと壁の高い所に位置しているはずなのだが、トトは私にその高さまで階段を使って上れとでも言うつもりなのだろうか。
 それを想像したとたん急に私の顔から血の気が引いてきて、聞かずにはいられなくなった。無視されたら何度でも問いただせばいい。
「こっからどうするつもりなの!?あそこまで走って上れって言うの?」
「んなわけねえだろうが!」
 今度は通じたようだ。しかし、酷いいわれようでもある。
「あいつの家まで直通で行けるエレベーターみたいなのがある!もうすぐ付くはずだ!」
 そう言ってトトは急に方向を右へと変え、そのまま突き刺すように壁の方へと向かっていった。
 そちらに目をやると、彼の言った通り人を高いところまで連れていけそうな装置を見つけた。
 それはエレベーターと大それた名前をつけれるような代物では無く、人を運ぶ箱の上に紐がつりさげられており、上部に取り付けられた滑車のおかげで上っていけるような簡単なモノだった。当然その箱の周りにはガラスですら囲われておらず、外の空気を体に浴びながら上昇して行く。
「ほらっ、乗れ!」
 トトに促され私はそれに飛び乗った。トトはすでにその箱に取りつけられている装置を作動させ、私が上部へと持ち上げられていく。
 先ほどまで私たちのいた地面が少しずつ小さくなっていき、代わりに上部に存在していたぼやけた景色が鮮明になってゆく。
 はぁ、はぁ、と呼吸を少しずつ整えていき、私は何とかトトに口を聞ける状態にする。
「もう一度聞くけど……『見つかる』ってどういうこと?」
「………」
 箱の手すりにとまったトトはまたしても私を無視してきた。私は聞こえてないのかなと思ってもう一度聞き返そうと思ったがそれはやめておいた。流石に三度も無視されて怒りに耐えられるほど私の心は頑丈にはできていない。トトに口げんかで勝てるとは思えないから余計な言い争いは避けて当然だ。
「そら、着いたぞ」
 そうこう言っているうちにエレベーターとやらは私たちを目的地までしっかりと運んでくれた。創介の住む家の中につながっていて、到着した場所の目の前にあるドアを開けると初めに創介に会った無機質な部屋が現れた。当然、室内には創介がいる。
「うっす、ちょっと客人を連れて来たぜ」
 トトが真っ先に椅子に腰かけてゆったりした時間を過ごしていた創介の膝の上に座った。
「客……人?」
 創介が彼の言葉を噛みしめるように言うと、ゆっくりと椅子から腰を上げ、体中のストレッチがてら軽く伸びをする。
 彼と目があった。私は思わず背中を震わせた。こういうとき何を言っていいかいまいち分からない。
「お、お久しぶりです……」
 とっさに出た一言が、これだった。完全に場馴れしていないのが丸わかりである。自分で発した言葉なのに、急に恥ずかしく思えてきた。
 それでも、創介は私に頬笑みかけていた。私のしたことは間違っていなかったのかなと錯覚してしまう。
 そして、創介が口を開いた。

「『はじめまして』お客さん」

「………え?」


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