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【創成者の街】第一話『memory』その2,5
一人、青年が鼻歌交じりに陽気に街中を歩いていた。彼の目指す場所はこの街の一部を羨望できるコンクリートでできた展望台。手すりに囲まれていて、双眼鏡と望遠鏡が一台ずつ設置された簡素な広場になっており、時たま少年少女の遊び場にもなっていた。
 階段を上り、人々の隙間を縫っていき、ショートカットの為にコンクリートの壁を登ったりと多少無茶をして、彼は展望台にたどり着いた。
 そこにはすでに先客が一人、いや一羽が青年の姿を捉えるなり殺気を込めた雰囲気を漂わせていた。感情のある生物なら誰もが彼の側に寄りたがらないだろうと思われる。
 しかし青年はその殺気に全く動じることなく、むしろそんなものなど感じていないといったように全く持って無視したまま手すりに腕をかけた。
「……おい」
 鳥が青年に向けて声を発する。ドスの利いた低い声だった。
 青年は、その声に応じる代わりに口元を緩めた。反応は、それだけだった。
「……会話するつもりも無いってか。ふざけんのもいい加減にしろよ」
 鳥の攻撃的な口調にも、青年は動じなかった。体を揺らして展望台から見下ろす街の雰囲気に身を投じている。
 ついに鳥はしびれを切らして彼の真正面に飛び立ちその漆黒の体を見せつけた。目線は青年と全く同じ高さになっている。
「てめぇはいいことした気分になっているだろうがな、こっちとしちゃあ大迷惑なんだ」
「――ちょっと邪魔だよ」
 いつまで経っても相手にしようとしない青年の態度に、ついに鳥は完全に頭にきた。
 感情の赴くままに彼の視線を青年に突き立てる。その瞬間、鳥の体から衝撃波とも呼べる疾風が放たれ、青年の体に直撃する。
 しかし、それでも青年は全く動じなかった。一歩も後ずさりすることなく、その衝撃波を体で完全に受け切り、消し去った。
「――っ!」
 疾風が止み、それと同時に鳥の表情が驚愕で硬直する。
 その様子を見た青年は哀しい笑顔を示しながら肩を落としてため息をつき、重い口が開いた。
「《ラングイッジ》のキミが俺に『真実の言葉』を創らせようったって無駄なことぐらい分かってるだろ?俺は《創生者》の創ったものを消し去るための《掃除人》なんだよ。どうして無駄な事をしようとするのか理解に苦しむね」
「………クソがっ!」
 鳥はより一層感情を青年に突き立てるが、彼の余裕の表情は全く変わることは無い。
「なんだってこんなことをするかだっけ?まぁ、理由は簡単だよ。『変化』をこの街に与える必要があると思ったからさ。こんなありきたりの何もない、酷くつまらない世界に『変化』を与えたら一体どうなるかって試したくなってね。君だってそうでしょ?自分の仕事をこなして、暇だったら創介の所に行って来客と会話して、それでもすることなかったらもう何度も飛んだことのあるこの街の空を泳ぐ。そんな毎日決まった生活をしていてつまらないとは思わないかね。もっと刺激がほしいとか、何か変わったことがしてみたいだとか、
『外に出てみたい』
 とかね」
「――ッ!」
 口を開いたとたんに饒舌になるその青年は、かなしい笑顔から不気味な無邪気を含む笑い顔に変わっていた。
「キミも中々面白い反応をするよね。俺が予測した事を言ってみるとすぐにそうやってびっくりした表情を見せてくれる。図星って奴かな?」
「ち、違う。俺はそんな事を思ったことはねえ!」
 青年は「ふーん」と鼻を鳴らした。動揺を隠せずにいながら話す鳥にすでに説得力は無い。
「まあ、別にいいけど。もし仮にそうだったとしても、キミは彼女に会ったことで何かしらの『変化』はあったと思うよ。この世界しか知らない住民なら特にね」
 鳥の背中に冷や汗が流れる。嘴をキリキリと鳴らしてなんとかそれをごまかそうとするが、青年にはすでにそれは見抜いているように見えて鳥はさらに焦り始める。
「……街に『変化』だと?てめえの他人の考えを見抜く力だけは並大抵の人より強いと思っているからこそ勝手に言わしてもらうが、俺は『あいつ』が異常なほどにあの女に興味を示しやがったから、なにかヤバいことにつながる前に向こうに戻してやったのに、お前はそれでもまだやめるつもりはないってことか」
「だ~いせ~いか~い」
 青年は不気味に舌べらを唇の隙間からのぞかせながら笑う。
「……なんの為にだ。いや、お前には他にも理由はあるはずだ。少なくともお前は他人の為に動くような人間じゃ無いことくらい知ってんだよ」
 青年は、鳥のその言葉にだけは反応するように軽く目を見開いてヒュウと口笛を吹いた。
「流石俺よりも長生きしているだけはあるね。まぁ、俺よりも経験積んでんだから俺に諭されるだけじゃ駄目だって気付いてのことかな?」
「さっさと話せ!」
「………んもう、せっかちな鳥だね」
 今度はふてくされるように肩頬を膨らませて腕を組んだ。表情の変化だけは本当に長けているようだ。
「極論言えばキミの予測に間違えは殆どないかな。僕は僕自身の為に動いている。うん、確かにそうだ。ただ『なんとなく』彼女をこっちに連れてきた。理由なんて後付けでも十分。いちいち頭の中で考えを巡らせていたら日が暮れたって動けっこない。考えれば考えるほど深みにはまって、それこそ無限の思考が続いて行くだけ。だったら直感で行動をした方のが幸せになれると思わない?」
「……それだけの為にお前は彼女を、向こう側で普通に生きてりゃあ何も不幸なことなんてなかったアイツを連れてきたってことだな」
 ドスの利いた声をより一層強くさせて、憎しみをこめて青年を睨む。
 それでも青年はブレない。
「案外そうでもないんだなこれが」一嘲笑挟み、「絶対に手の届くはずのない才能を持つ年上と関係を持っているといろいろ苦労するってことだよ。ただの赤の他人なら純粋な尊敬の眼差しを向けることができるってのに、身内になるとこれに嫉妬が加わっちゃったりするわけで、無駄にいい子な彼女にとってはそりゃあ頭の中じゃてんてこ舞い。はたしてこれでもまだ、キミは向こうが幸せだと言えるのかい?」
「………」
 無言は、すなわち肯定。
 青年の言わんとしていることに対して、何も言い返すことができなかった。
 そんななか、青年は「それより」と付け加える。
「キミにとっては変化のことよりも彼女の安否を心配してあげるんだねぇ。そんなツンツンした性格のキミでも優しいところはあるんだね」
 青年は黒き鳥を視界から外すように体を半回転させ、手すりにもたれる。彼から流れる雰囲気がその行動によってさらに強くなっていく。
「でも、俺にとってはそんな事ど~でもいいの。他人の幸福なんて、俺にとっての幸福に比べれば切り捨てたって何も構いはしない」
 そして、自分を嘲笑するように引き笑いを浮かべて続ける。
「結局人間ってそうでしょ?他人の事を考えているとか言っておきながら心の中では自分の事ばっかり。偽善者なんて言葉があるけど、それって人間と同義じゃないのかなって思うんだよね。だから、俺はその偽善者になりきってるわけ。いや、他人が欲しいと思っていた事柄を、身を呈して提供しているわけだから、むしろ善人って言えるかもね」
「……好き放題言いやがって」
「さっきから黙っていると思ったら、絞り出せた言葉はようやくそれだけか。まぁ、普段おしゃべりなキミが急に無口になっているから必然だよね」
 青年がそう言うと、急に体重を後ろに傾け、手すりを軸として体を縦回転させて真下へと落下して行った。
「………っ!おい、てめえ!」
 鳥がその後を追いかけようと高度を下げ始めるが、すでに青年は次の行動に出ていた。
《掃除人》の持つ『境界を消す』力を利用して、彼の空間と別のどこかの場所にある空間との境界を消し、体ごと空間をワープさせたのだ。
「これ以上はあんまりキミには伝えられないからね!残りはキミ自身で答えを探してみな!」
 ついに完全に逃げられた。不気味な笑みを浮かべながら一点を見つめるその姿を最後に、姿を消した。
「…………」
 鳥は、飛ぶわけでもモノに留まるわけでもなく、存在するはずのない空間に青年の姿を探し続けた。

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