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【創成者の街】第一話『memory』その3

『記憶』は人格を創り出す一つの要因。人を形成するパーツ。
 今までの経験は全て『記憶』として脳内に記録される。人はその経験を元にして何をするべきなのか、何が正解なのかを瞬時に判断できるようになる。ただ、そのスピードや正確さは人によって違う。それはそれぞれの経験の量にあり、どれだけ『記憶』として蓄えることができたかによる。つまり、人の行動は全て自らの『記憶』を頼りにしてされるものであるがゆえに、『記憶』は人格を創り出すのである。
 夢想創介は、その人の『記憶』の中に意識を移すことができた。彼のいいようでは、人の『記憶』はたとえどれほど身長があっても届くはずのない程の大きさを持つ鍵付きのタンスという器の中に収納されるモノというふうに形容する。人が自らの意識を『記憶』の中に置くとき、そのタンスに合う鍵を探しだし、中から取り出すという行動をとる。その際、鍵が古かったり鍵が見つからないと、目当ての物を見つけることができずに現実では思い出せないと言う状態になるのだ。そして鍵はその使用者が使えば使うほど、ヴァイオリンの如くより磨かれるようになる。鍵にだって風化することもあり、下手をすれば崩壊する事もある。そうなると本格的に記憶喪失に酷似した症状が出始める。その時に、創介はその鍵を修理してまた新しくさせてくれる。それが彼の仕事であり、《記憶の創生者》『メモリー』と呼ばれるゆえんだった。

 そして現在、創介は弥生の記憶の中に意識を置いている。理由は一つ。創介が弥生と出会った経験があるという記憶を見つけるためだ。ただ、慣れた相手の記憶の中なら手に取るとまでは行かずとも殆ど何処に何があるのかを把握する事はできるのだが、何せ弥生は外の世界からやってきた言わば宇宙人のような存在であるために、彼女の記憶の中は創介にとっては複雑に見えて仕方がなかった。その影響で無駄にタンスを開ける回数が多くなり、彼女にとって奥底にわざとおいておいた記憶までもを掘り起こしてしまっている。その度に、弥生はその記憶を事細かに思い出すのであった。曖昧なものでは無く、一つの物語としての記憶が彼女の頭の中で展開されて行くので、なるべく早く事を済ませる必要があった。
「………どこだろう、彼女の言う通りなら絶対あるはずだし、嘘をついていたなんて考えにくいし……」
 鍵が無数に散らばる空間の中に一人、創介は腕組みをして顎に指を当てて考え込んでいる。彼を取り囲むまっ暗闇な空間は、もうすでに慣れている。鍵が自分の存在をアピールするかのようにほのかに発光しているおかげで、完全な闇とまではいかない。
「……これかな」
 自分の存在をアピールするように発光している鍵の内一つを手に取り、軽く放り投げる。
 すると、彼の投げた鍵はそれに合うタンスのカギ穴に向けて自律的に進んでいく。
 中から出てきたのは、彼の予想通りの記憶、創介と弥生が初めて出会ってから向こうへ変えるまでの記憶だった。まだ真新しい記憶だったらしく、鍵の風化も全く起こっていない。
「………」
 創介は、無言でそれを眺める。
 当然のことだが、やはり弥生の言っていたことは嘘では無かったらしく、それでいて自分が彼女と会っていないと主張してしまったことに対して申し訳なく思った。
 そう言うことに関しては自覚していたにしても、ショックなのは隠せない。
 創介は白と黒の混ざった髪の毛をポリポリと掻きながら思案した。

            *  *  *

 創介が私の記憶から戻ってきた後、再び彼らは机を挟んで向かい合うようにして座った。
 しばらく二人とも沈黙したままそれぞれの思考を巡らしている。
 彼が私の記憶の中にいる間、本当にいろんな事を思い出すことができた。私が幼稚園にいたころ、小学生のころ、中学生、そして今。
 私もいろんな経験をしてきたんだなと思えることもあったし、思い出したくない黒歴史までもが思い出せるようになっていて恥ずかしい思いもする羽目になった。
 ただ、疑問に思うこともある。
 目の前で窓の方に顔を向けている創介は、《記憶の創生者》であるはずなのに自分自身の記憶はかなり脆いと言うことだ。てっきり『メモリー』といった肩書があるくらいだから彼自身の記憶も自分で管理出来て、記憶力も信じられないほどすごいんじゃないかと思っていたのに、単なる私の思い違いだったのだろうか。
 それにしては妙だ。
 ならばどうして彼はトト達の記憶だけはしっかりしているのだろうか。何度も出会った相手なら記憶がしっかりしているのも分からなくはないのだが、久しぶりだと言っていた龍之介でさえ存在を知っていて、前日に会話もしたくらいの相手のことを全く知らないのはいくらなんでもおかしい。
『街の住民のことだけなら誰でも知っているのだろうか?』
 といった仮説を立てても直接本人に聞く以外に確認を取る方法はなさそうだ。
 私はそう思って口を開こうとしたら、全く同タイミングで羽ばたき音が聞こえてきた。
 音のするまどの方に視線を向けると、トトが開けてくれんと言わんばかりに目つきを鋭くさせ空中にとどまっている。
 窓を開けたのは、創介の方だった。やれやれといったように軽くため息をつく。
 そしてトトの声は、窓を開けると同時に発生した。
「おい!弥生、龍之介に逃げられた!」
 威勢のいい、焦っているわけでも申し訳ないと謝罪の気持ちも待ったく感じさせないその言葉遣いに私はどう反応していいか分からなかったが、彼のいう意味な班と鳴くだけど分かる。
「えっと……つまり私は帰れなくなった?」
「そう言うことだ」
 間髪いれずに答えられ、私はその場で倒れ込みそうになる。
 龍之介が唯一のこの世界と私のいた世界をつなぐ架け橋を創ってくれる人なのに、その彼がいなくなるとしたら私はどうすればいいのだろうか。
 少なくとも可能性として考えておく必要があったはずなのに、いつの間にか無条件で彼を信用してしまったせいで全く頭になかった。
「しかもアイツは自分のいた空間と向こう側の空間との境界を消しやがったせいでその先の世界が何処なのか皆目見当もつかねぇ。まだ街にいるのかもしれないし、お前のいた所にいるのかもしれない」
「じ、じゃあ、私はどうすれば……?」
 街の知り合いなんて彼ら以外にいるわけもなく、宿だって何処にあるか知らないし、そもそも私を泊めてくれるような施設なんてあるとは思えなかった。
 宿泊代だって持っていなければ食料を買うお金だって持ち合わせていない。完全に手ぶらで来てしまっている。
 すると、トトが私の絶望に満ちた顔を呆けた顔で眺めながら口を開いた。
「しばらくここにいるしかないだろうな」
――こ、ここ?
「なあ、創介。別に女一人止めれるスペースぐらいあるだろ?」
「え、あ、まぁ。うちは無駄に広いし、一人位なんてことないと思うけど……」
 不意に話を振られた創介は戸惑いを見せたせいで若干声が裏返ったが、指をいくらか折って何かを確認するそぶりを見せて頷く。
 それを見てトトも満足そうに弥生に向き直った。
「という訳だ。これで食・住は確保できたわけだ」
 しかし、トトが勝手に満足されても私は困るだけだ。
 街の向こう側では時刻はもう遅い訳だがそれでも太陽が顔を出す頃には母親も動き始め、私の部屋にズカズカと入ってくるだろう。そうなってしまったら私が急に姿を消したことについてどう思うだろうか。下手をすれば警察に捜索願も出しかねない。
 私としては一刻も早く龍之介を見つけて元の世界に戻してほしいものだが、それはどうなのだろうか。
「ほ、本当に龍之介は見つからないの?どれだけ頑張っても?」
 恐る恐る私が聞いてみると、トトはしかめっ面を浮かべながらも感情はしっかりと保ち
難しそうな表情を浮かべた。
 数秒間の「あー」の後に言葉が現れる。
「まぁ、全力で探せば街中は探しつくせると思うんだが、あいつが境界をいじった瞬間に向こう側がチラと見えたんだよ。ありゃ俺の知らない場所だった」
 彼の口ぶりからして、探すのは諦めた方がいいと言っているのは明らかだったが、私にとってはそんな程度で諦められては困るのだ。全力を挙げてでも探してもらわなくてはそうしないでいた未来の方が怖い。
「な、何とかならないわけ?ほらあの、境界の向こう側に行けるようなモノとか……」
「そんなものあったら苦労はしねえよ」
 トトは吐き捨てるように漏らす。
「確かにアイツは《掃除人》であって《創生者》じゃねえから消去した境界を元に戻す方法なんて無いんだが、当然それを埋め合わせる輩もいるわけで。こんな状況じゃうっとおしいにこしたことは無いけど街からしてみれば境界を元に戻さないと余計混乱する羽目になるから仕方ねえんだ」
 トトは羽を広げ首を振る。お手上げのポーズを取っているつもりだろうか。
「今はアイツが俺たちの前に姿を現すのを願っているしかできないだろうな」
 ここまで完璧に反論されると言い返す言葉も見つからない。
 私自身の本音ではまだ何か手があるんじゃないかと思えるのだが、この街の事を殆ど何も知らない私がいくら考えたところでいい案が出るわけもないのだ。
 私はショックを隠しきれず両手で頭を抱え込んだ。同時に深いため息も漏れる。
「なんでこんなことになっちゃったんだろう……」
 当初ではただ自分を変えようと思ってこの街に来て、龍之介がいるからいつでも元の世界に帰れるだろうという算段を組み立てていたのに、龍之介の消失でそれが一気に崩れさることになった。
 トイレ掃除をする前に逃げるようにして彼が去っていったときも、どうせ終わったころには戻ってきてくれるだろうと思っていたのに、まったく酷い形で裏切られたものだ。
 泣きたい気持ちもあったが、どうにも泣けそうにない。もっと悔しかったり悲しかったらそうする事も出来そうなのに、それ以上にショックが多すぎて今はただため息をつくことくらいしか感情を吐き出すことができない。
 すると、いつの間にか創介が私の横に来ていて、肩に柔らかく手を乗せる。
「とりあえず、今はキミの身の安全が第一だよ。龍之介が何を考えているのかは僕たちも見当がつかないけど、だからと言ってがむしゃらに行動するのもよくないと思う」
 そう言って創介は私に微笑みかける。
 瞬間、私は恥ずかしいやらみっともないやらで彼の笑顔を直視できなくて反射的に目をそむけてしまった。
 そう言えば、創介は本当によく笑う。特定の個人の為とかではなく、本当に誰に対してでも優しい頬笑みをかける。それが彼なりの優しさであり、彼の性格を表しているのだとしたら、敵を創りそうもないその笑顔が本当にうらやましい。
「………それじゃあ……よろしくおねがいします」
 何となく言いくるめられたような気にもなったが、創介の言うことも一理あるわけで、この街の事を何も知らない私にとってはこれから訪れるであろう夜に対して何も対策が打てないんじゃあ彼らの言う通りにするしかなさそうだった。
「こちらこそ、よろしくね」
 私の言葉を噛みしめるように承諾し、彼は私の肩から手をはなした。

 それから私たちはトトを含めて一緒に夕食を取ることになった。
 私も何か調理の手伝いをしようとキッチンに足を運ぼうとしたけど、創介は客人にお世話をさせるわけにはいかないと言って彼が料理を運んでくるまでずっと机に座らされた。
 仕方がないからそれまでトトと何か話そうと思ったのだが、生憎共通の話題なんてありそうもなく、おまけにトトに至っては私の話しなんて興味が無い様で相の手が全部ハ行で済まされる羽目になった。会話のキャッチボールくらいしてほしいものなのに、これじゃあまるで私が暴投を繰り返しているような気がして結局私の方から話を切ることになった。
 しばらくして、私の座っていた無機質な机が食卓へと様変わりする。
 創介の作る料理は絶品で、身勝手ながら手伝うなんて言ってしまった自分が恥ずかしくなるほどだった。とても男性が作ったとは思えないほど繊細な味で、なおかつメリハリの利いた味付けが私の食欲を進め、気がついた時には彼らよりも先に自分の取り分を完食していた。
 そして皆の食事が終わり、もう窓の外はすっかり暗くなっていて、月明かりが街を照らしまた違った表情を私に見せてくれた。
創介は片づけの為に席を立って食器を運ぼうとしたときに、流石に泊めてもらう身だから片づけぐらいは手伝うべきだろと思って私は名乗りあげた。けどまた同じ理由で止められて、無機質に戻った机に突っ伏していた頃――
「そういえば、トトっていつから創介と知り合いになったの?」
 私にとってはただ純粋な疑問だった。
 別段トトと会話しようとか、沈黙に耐えられなかったとかじゃなくて、ふと頭に浮かんだ単語を並べたに過ぎない、言うなれば価値なんてほとんどない様な言葉の羅列だった。
 それなのに、今までのツンとした態度とは明らかに違う表情を私に見せた。
「……聞きたいか?本当に、知りたいのか?」
 それは、自分の武勇伝を語るようなほど声が踊るような調子に様変わりしていたのだが、どこかその中に微妙に悲哀の感情が含まれているような気がして、少しばかり罪悪感を覚えた。
「あ、いや、別にそんな深い意味を持って聞いたわけじゃ無くて。ただ何となく頭に浮かんだだけだから、別に気にしなくたっていいんだけど……」
 私がそう言うとトトは向きなおって一言「そうか」とつぶやいた。
 再び、沈黙が訪れる。
 そんな彼らの間に、キッチンで洗い物をする創介の陽気な鼻歌と皿と皿が接触してカチャカチャした音が通りすぎるばかりだった。
「………あのな」
 口を開いたのは、トトの方だった。彼の顔は私の方に向いているわけでは無く、視線は創介の背中を追っているように遠くを見ていた。
「人がふと頭に思い浮かぶ疑問って言うのは、そのほとんどが人間的本能の中に生まれたものだと俺は思っている。今お前が頭に浮かべた『俺と創介の出会い』ってのはいずれお前に話さなくちゃいけない事だと勝手に判断しただけだから、お前の感情は今は一切気にしないことにするな」
 確認を取るようで全く取る気のないその言葉には、どこかトトなりの覚悟をしたように思えた。
「まあ、お前にとっちゃあ俺の言うことのほとんどは驚くことばかりだと思うが、俺は嘘をつくつもりはねえもんでいちいちウソでしょなんて相の手入れずに黙って聞いていくれ」
「う、うん……」
 私の頷きを確認するようにチラと私に視線を移してから、また元に戻った。
 そして、深呼吸をひとつ入れて口を開く。
「人間ってのは自分が生まれた瞬間ってのは覚えてないのが普通だと思うが、『ラングイッジ』の俺はそうじゃ無かった。この街に生を受けたときにはすでに俺の体は黒一色で翼だってしっかりしてるわ普通に飛べるわで割と不自由なく生きていた。元々周りの変化には対応しやすい正確なもんで特に生活に疑問を持つこともないし、飯だって自分で探せば簡単に取れてた」
 キッチンから水の流れる音がし始めた。食器のすすぎに入っているのだろう。
「街の生活にも慣れて、負抜けた顔をしている輩に片っ端からちょっかいをかける事が日常になっていた頃に、俺は創介に出会った。初めて出会ったアイツは今と変わんねえくらいへらへらしててだな、コイツはからかい甲斐のある奴だと目をつけて手始めにこの家の扉の真ん前に俺の糞をぶちまけてやったんだよ。そうしたらアイツ、嫌な顔一つしねえで玄関前の床を掃除し始めるわけだ。しかも次第にエスカレートし始めてついには家中を大掃除し始めるもんだからこりゃあ変な奴に出会っちまったなって思ったわけだ」
 水流の音が消え、皿同士の接触の音が極端に聞こえ始める。
「まあ、でも俺には初めての経験だったのと、何となく逆にからかわれたような気になって俺の悪戯心に火が着いちまって直接はち合わせて驚かしてやろうとまたアイツに会いに行ったら、礼儀正しく「はじめまして」なんてあいさつしてくるわけだ。こっちにとっちゃあ面喰って一瞬たじろいじまったが、そこはまあ悪戯のプロの俺だから持ちこたえてあいさつし返したら予想以上にびっくりしやがって、鳥が喋れるってのはアイツにとっては常識じゃ無かったってことだと初めて知ったよ。そん時のアイツの表情と言ったら可笑しくてさ」
 トトは苦笑いを浮かべる。
 視線の先にいるであろう創介は鼻歌を終え、戸棚に食器をしまいはじめた。
「でだ、あの顔が忘れられなくってまた驚かしてやろうとアイツの家に来たら、今度は俺が驚く羽目になった。昨日と全く同じ反応をしやがったんんだ。あいさつから人語の下りまで全部な」
 創介は自分の片づけを終え、キッチンからこちらの部屋に戻ってきた。そして私とトトが何かを話しているのに気付き、トコトコ近づいてきた。
「………アイツ、前日に直接会って驚きもした俺のことを『全く覚えていない』みたいだったんだよ」
「え………」
「ん……?なになに?」

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