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Re:創成者の街 第一話 記憶の鍵 その1
 どうやら、俺が迷い込んでしまった、いや、訪れてしまった世界というのは、風景が違えど、本質的には俺がいた世界とほとんど変わらないみたいだ。人間がいて、動物がいて、家があり道があり生活がある。そういう意味では、茜が言っていた、家を渡りついで、居候生活というのも、そこまで大変なことではないのかもしれない。
 まずしばらくは創介の家にお世話になることになった。茜の家はまだ入れることができないようで、彼女の言い分では、家の中がブラックホールになっていて、危険だから入れるわけにはいかないとのことだ。
 そういうわけで、今は創介の家に案内されて、お茶を出すと言われて、慣れない四帖間の和室に、ちゃぶ台の前で正座している。
 そして、今目の前では、俺の理解の範疇を超えた出来事、もしくは現象が発生していた。
「おいこら、こっちに目を合わせろ。母ちゃんから習わなかったか?人と話すときは人の目を見なさいってよ。だからこっちを向けって」
 とても、顔を合わせる気分じゃない。
 なぜって、俺の目の前にいるのは、紛れもないカラスだからだ。そのカラスが俺に向かって話しかけているからだ。
 人の目を集めるほどの漆黒の体、それゆえに目と体の境界が曖昧になってしまっている鳥。大きさもそれなりにあり、時折彼の漆黒の羽根が抜け落ちて俺の目の前を舞う。
 そんな容姿、仕草はどこをどう見てもカラスである。しかし、今まで人語を喋るカラスがいただろうか。それとも、幻聴だろうか。
「あ、いま俺をチラって見ただろ。どうせならもっとこっちを向いたらどうだ?お前がそんな態度じゃろくに話もできねえじゃねえか」
 いや、口が動いている。あれは確実に声を発している。
 一体何だ、これは何が起きているって言うんだ。
「だったらこっちから向かってやるよ。いいか、その姿勢を動かすんじゃねえぞ」
 カラスはそう言って俺の視界に入ってこようとする。
 俺はその動きに合わせて更に体をひねる。
「あ、テメェ、動くんじゃねえっていっただろうが!」
 うるさい、俺だって見ず知らずのカラスと気楽に話せるほど肝は座っちゃいないんだ。頼むから目を合わせようとしないでくれ。
 そのカラスはリズムを取るかのごとく「おい」だの「こら」だの繰り返しながら、右、左とステップを踏む。その度に羽根が一枚二枚と落ちる。
このまま落ち続けて、いっそのことローストチキンにでもならないかと思っているところに、ようやく創介が急須と湯呑を三つ運んできた。……三つ?
「ごめんね。なかなかお湯が沸かなくてさ。あと、お菓子も見当たらなかったんだ」
 やはり見間違えではなかった。創介は目の前のカラスにまでお茶を運んできていた。お茶でさえも飲むというのかこのカラスは。
 見れば見るほどわけがわからなくなってくる。こいつは一体何なんだ。
「あまりいじめないでやってよ。そんなにグイグイ突っ込むと話せることも話せなくなるじゃないか」
「おっとわりい、そりゃあ失礼したな」
 カラスは意外にも素直に創介の言葉に反応して、俺と距離をあけるためにぴょんとバックステップを踏んだ。創介とは普通に会話ができるのか。
 困り果てた俺の前に救世主が現れたことで、俺も幾分安心感が持てて、ようやく座り直すことができた。カラスに真正面で向き合えるようになったのだ。
 ただ、肝心のカラスは足元の羽を起用にも片足で掃いているせいで、今度はカラスのほうが顔を向けてこなかった。
「なぁ、創介。この鳥は一体なんだよ?」
 俺はため息混じりにことばを発した。しかし、投げた言葉のボールは大きくそれてしまったようだ。
「俺の名前を知りたいのか?」
 一瞬で、俺は頑なに拒んで築いてきた心の壁を、自分自身でぶち壊して台無しにしたことに気づいた。目の前のカラスが好奇の目で俺の方へグリンと首を回した。ここぞと言わんばかりに。待ってましたと言わんばかりに。
「いいだろう、教えてやる。俺の名前は『トト』って言うんだよ。わかるか?ローマ字で言えばTOTOだ」
 どこの便器だと突っ込みたくなったが、ここは我慢する。
「俺をただのカラスだと思ってもらっちゃあこまる。俺はそんじょそこらのカラスよりも頭がいいんだ。計算だってできる。考えることだってできる。そして、何ヶ国語だってしゃべることができるんだ。しかも、俺は鳥目じゃない。夜。月明かりのみが地上を照らす唯一の明かり、なーんてとってもロマンチックな状況でも、俺は自由に飛ぶことができる。なんならイチャつくカップルに俺の肥料をぶちまけてやることだってできるんだぜ?まぁ、空は俺のテリトリーみたいなもんよ」
 長い、くどい。そして、俺の知りたいことが一つも出てこない。
 間髪入れず、本当に文字通り髪の毛一本すら入る隙間がないほどトトは次々とことばを並べていく。わざと俺は嫌そうな表情をしたところで、彼の身振り手振りが大げさすぎておそらく視界に入れていない。こうなることは予想できていた。だから会話をしたくなかったというのに……。
「それでだ、一つお前に質問していいか?」
 しばらくトトの長い話を創介と一緒に聴き続けていると、なんの脈絡もなく急に俺にことばを投げかけてきた。
「あ、ああ。別にいいが……」
「時にお前は、なんの自覚もなく、急に、突拍子もなく、この世界に訪れたって話だったよな?」
 ただの前置きだろうか、と、トトの質問の意図を探りつつ、俺は頷いた。
「そうか……。それじゃあお前はここへ来た方法も、理由も分かっていないわけだ」
 そのことなら俺自身今まで何度も繰り返し問いてきたことだ。あれ、と言うより……。
「なあ、トト。質問って、一つじゃなかったのか?」
 すると、トトが顔をしかめて(あくまでそういうふうに見えるだけだが)「はぁ?」と一言。いかにも俺が的外れなことを言ったかのように振舞う。
「いや、だってさ。あんた、明らかに質問はひとつだけって言ったよな」
「質問は一つって言った。だが確認は数に指定をしていないぜ」
 なぜか胸を張ってトトは答える。それってつまりは、ただの屁理屈では?
「話を戻すぞ。それで、ここに来るまでの前後は、何か覚えていることはねえのか?」
「何かと言われてもなぁ……。あれ?」
 おかしい。思い出せない。
 いくら記憶力が悪かったにせよ、まともな人間であれば流石に昨日の出来事で何があったかくらいは、ワンシーンにせよ、覚えているはずだ。なのに、まるっと削り取られたかのように思い出せない。
 それだけじゃない。昨日どころか、ここ数年の記憶がごそっと消えている。確かに自分の名前は覚えているし、歳だって18だということはわかる。高校にだって通っていた。入学式のことは思い出せるくらいだし。なのに、それからの高校生活がまるっきり何も出てこないのはおかしい。
 部活は?得意科目は?友達は?クラス番号は?
 どれを自問しても、回答は一つとして出てこない。なぜだ?
「なるほどな……。どうやらこういうことらしいぜ」
 俺のそんな様子を見たトトが、創介に伝える。まるで、トトが創介に助けを請うているように。
「なんで、そこで創介が出てくるんだよ?……まさか、創介が俺に何かしたのか!?」
「ばーか、むしろその逆だよ」
 トトが騒ぎだそうとする俺を嗜める。冷たい目線であったが、反論を許さない、強い圧力を感じられる。そのせいで俺はたじろぎ、黙ってしまった。
 そして、トトはニヤリとした表情を見せ、一言、俺に放つ。
「こいつは記憶が吹っ飛んじまったお前を何とかしてやれる力があるんだよ」
「…………はい?」

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