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Re:創成者の街 第一話 記憶の鍵 その2
「力って、どういう意味だ?なんとかしてやれるって……」
 ちゃぶ台の上で軽い毛づくろいをしているカラス、トトが言い放った言葉に、俺は動揺を隠しきれず、思い余って、あろう事かトトに質問してしまった。しゃべりだすと止まらないこのカラスに。
「どういう意味っていってもな。そのまんまの意味としか言いようがねえよ。ほら、例えばお前には目がある。その目という物体は、常に世界をどのような形であるのかとらえるために備わっている。そして、二つ存在する理由も、単にスペアとしての機能があるわけじゃなくて、二つあるからこそできる技があるわけだ。けど、その機能、つまり力は何もお前が望んでそうなったわけじゃない。そして、創介の力にも同じことが言える。自分で望まずに手に入れてしまった力っていうと語弊が生まれるかもしれんが、まあ、大体そういうこった」
「トト」
 トトの、まるで自分のことのように話すその言葉に、創介がツッコミを入れた。
「多分、真人が知りたかったことはそれじゃない」
 一瞬の間。
「あれ?そうだったか。まあ、いいってことよ」
 おい、バカガラス。冷や汗が拭い切れてないぞ。
 創介までもが、ため息を一つ吐いた。
「簡単に説明すると、僕は他人の記憶を見て、思い出させることができるんだ。君のいた世界で言えば、ある種の超能力者的な、そんな人間なんだ。だから、君が無くしてしまった、思い出せなくなった記憶を呼び起こすことだってできる」
「もし、それができれば、俺は元の世界に帰れるってことなのか?」
「可能性として、変えることができるかもってだけだよ。実際は違うかも知れない」
 創介は、〝可能性〟の言葉を強調して言う。先ほどののほほんとした雰囲気はほとんど感じられなくなっていた。大人で言う、仕事モードというべきか、とにかくそんな感じによく似ている。
 そして、創介は更に付け足す。
「あと、僕はあんまりオススメできる方法じゃないんだけどね」
「オススメって……、何かまずいことでもあるのか?」
 創介は、あからさまに嫌な表情を浮かべた。何かを思い出してしまったのか、それとも、単純に俺の追求が気に入らなかったのか。少なくとも、後者であって欲しくないが。
「人の記憶を呼び起こすことってのは、それだけ強い衝撃が後に残っているってことなんだ。鍵を失くしたとか、暗証番号を忘れてしまった程度なら、僕も嫌がらないし、むしろ喜んでお手伝いさせていただくんだけど、君は記憶のなくなり方があまりよろしくないんだ」
 俺は思わずつばを飲み込んだ。彼の次の言葉に、慎重に耳を傾ける。
「そもそも、記憶の失くし方は、大きく分けて三通りあるんだ。まず一つ目は記憶の上乗せ。ほかの作業と並行して行うと、どちらか一方の些細な行動を忘れてしまうというような現象だ。鍵を失くすなんてのがこれに当てはまるね。そして二つ目に、外的衝撃による記憶喪失。漫画とかでボールが飛んできて頭部に直撃。そのまま私は誰状態になってしまうのがこれだね」
「じ、じゃあ。三つ目ってのは……」
 俺の言葉に反応して、創介の閉じた片方の目が開く。
「自ら記憶を消去する方法。ここまで来るとかなり厄介なことになるんだ。そもそも忘れようとして記憶を忘れようとすることなんてのは、そこまで珍しいことじゃない。誰にだって思い出したくない出来事くらいはあると思う。でも、それを無理矢理掘り起こそうとすると、どうなるかわかるかな?」
「……多分、後悔すると思う」
 答えなんてわかるわけないのだから、自信なさげに言葉が出るのもしょうがないと思う。でも、あまりの創介の経験則のような言葉の使い回しに、少しビビっていた。
 創介は、そんな俺を見かねることもなく、遠慮なしに続ける。
「それだけで終わればいいけどね。真人が一体どれだけ記憶がなくなっているのか僕は知らないけど、かなり長い期間記憶がなくなっているとしたら、それは相当な衝撃と、拒絶の塊であったわけだから、それを無理に引き出そうとすればそれこそ、自殺しかねない。考えてみてもそうだろ?例えば中学校でいじめを受けていて、その辛い出来事を思い出したくないから、いじめに関する記憶を消そうとする。すると、自分をいじめていた所謂いじめっ子の風格、性格、人間関係までもを忘れ去ろうとする。すると、いじめを受けていた中学校の、かなり長期間の記憶喪失が生まれてもおかしくはないんだ。」
「もしかしたら、それが俺なんじゃないかって?」
 俺の問いに、創介は静かに頷く。
「今回のケースはただでさえ異常続きなんだ。もしかしたら、僕の想像をはるかに超えた記憶が、君の頭からごっそりと消し去ってしまったのかも知れない。可能性は、ゼロじゃない」
 俺が、自ら記憶を消した?
 にわかには信じ難い出来事だ。一体全体どうして俺が記憶を消さなくちゃいけないんだろうか。皆目検討もつかない。
 ただ、創介が嘘をついているとも思えなかった。彼の表情、言葉使い、急に流暢に話し始めることからしても、まるで本物のように感じられた。それに、嘘をついて彼らに何かしらの利益があるとも思えない。
 信じて、いいのだろうか。彼らに従っていいのだろうか。
 俺は再び、意味のない自問自答をはじめる。
「……過去にも、経験があったのか?」
「ごめんね。悪いけど、それは答えることはできない」
 創介の表情は、本当に辛そうな様子だった。本人がそのような表情をしている異常、更なる言及は野暮と言うもので、そこで俺は別の質問をする。
「もし、もし仮にだ。創介が他人の記憶を覗けたとしよう。すると、どんな風に他人の記憶を見るんだ?他人の記憶を見ると言われてもイマイチ、ピンと来ないんだ」
 ああそれなら、と言って創介は両手をちゃぶ台の上に置く。
「簡単に説明すると、僕が相手の頭に手を乗せる。すると、僕は意識を君の中に飛ばして、記憶が貯蔵してある空間に行くんだ。そこで、思い出しにくくなっている記憶を引っ張り出して、それでおしまい。わかったかな?」
「……それはあくまで他人から見た様子ってことだよな」
 創介は静かに、自信たっぷりに頷く。
「実際の創介は、その、記憶の貯蔵されている世界に行くわけで、そこはどんな世界なんだ?」
 自分自身で【〇〇な世界】なんて単語を発すると少しむず痒くなってくる。いや、そんな言葉に惹かれる歳は、もう卒業したはずだ。今更何を……。
「そうだね、わかりやすく言えば、タンスかな。ベースは全く何も存在しない空間。暗くもなく、明るくもない。それでいて上下のバランスも存在しない世界。そこには、とっても大きなタンスが一つポツンとある。人によって大小さまざまな大きさがあるけど、それの一つ一つに鍵がかかっていてその鍵穴にあう鍵も、そこらじゅうに散らばっているんだ。僕はそれを回収したり、タンスの中身を整理したりしている」
 創介はひと呼吸おいて、「そして」の一言をつけて言う。
「君の場合は、鍵を『創って』タンスをこじ開ける必要がある」
 ん?鍵を『創る』って、どういうことだ?
 聞けば聞くほど、謎が次々と生まれてくるばかりで、一向に話が進みそうにない。根掘り葉掘りになってもまずかろうと思って、話を戻すことにした。
「それで、俺の記憶を戻すことはできないのか?」
「できるよ」
 あっさりと、創介は答える。
「記憶を戻すことは、そこまで時間はかからない。むしろ一瞬で終わるよ。問題なのはその後なんだ」
「関係ない。俺がどうなろうと、無くなった記憶なんて結局は俺の記憶なんだ。さっさと元に戻して元の俺の家に帰りたい」
「……それが、君の意思なんだね?」
 噛み締めるように、創介は言った。先ほどの辛そうな表情もチラと垣間見えるが、そんなことは気にしない。俺は俺だ。
 俺は、静かに頷いた。
 それを確認すると、創介は俺の背中へと回り込んだ。動いて欲しくはなさそうで、俺もなるべく動かないように務める。
 すると、創介の手が俺の頭の上に添えられた。
「それじゃあ、行くよ」
 創介の言葉と同時に、俺の後頭部に衝撃が走った。痛みはほとんどないものの、かなりの圧力がかかった感覚があった。
 パキン
 ん?なんだこの音は。金属音のような、甲高い音が聞こえた。
 創介の話の途中では静かにしていたトトが、口をぽかんと開けて俺の頭上を見上げている。
 いくら何かしらをやってくれているとしても、トトのその様子と聞きなれない音に、俺は後ろを振り向かずにはいられなかった。と言うより、ほぼ反射的に、無意識に振り返ってしまった。
 そこには、まるで鍵のような形をしていたであろう金属の破片を握った、顔を真っ青にした創介の姿があった。

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