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Re:創成者の街 第二話 稲妻の叫び その1
 風が、吹いている。決して不快感を与えるような悪風ではなく、むしろ心地よさをもたらしてくれる、良風を体全体で感じ取った。時は夕方。日が沈みつつもまだ粘って地上に顔をのぞかせようとしている。そろそろ休んだっていいんだぞ。
 俺は今、創介の家のベランダに手をかけて、一人黄昏ている。頭の中では様々な思考がめぐっては衝突を繰り返し、やがて自然に消滅していく。集中力がないのかと言われれば、何のためらいもなしに、「はい、そうです」と言えるのが心苦しいが、それ以上にひどいことが現在俺に降りかかっている以上、そんな小さなことを気にしてもいられない。
 どうやら今の俺には、鍵の破片が本当に後頭部に突き刺さっているようで、そこから自分で封印してしまった記憶がほんのわずかだが漏れ出す可能性が生まれたらしい。それには何かしらのきっかけが必要になるのだが、今から約2、3時間前に創介の家の本棚にあった本を引っ張った際に両隣にあった本を一緒にぶちまけてしまい、それが頭にぶつかった衝撃でなんと記憶がわずかに戻ったのだった。しかし、その記憶というのが……。
『俺は高校時代の友達が一人もいない』
 つまりは、一人ぼっちだったというわけだ。どういった経緯でそんな状態に陥ってしまったのかはまだ思い出せないのだが、高校時代の友人と呼べる相手が一人も検討がつかないのだった。もしかしたら、ただ単純に思い出せないだけなのかもしれないが、少なくとも、「俺は友達なんて必要ない」といった発言を繰り返していたことは確かだった。
 どうして俺はあんなことを……。と頭を抱えたくなるが、ここはぐっと我慢して、ため息をつくことにした。
「おーい」
 すると、ベランダの下のほうから声が聞こえた。若い女性の声。もしかしたら自分と同い年くらいの人かもしれない。俺は思い切って身を乗り上げ、下に顔を向けた。
 そこには、金色とも黄色とも言えぬ微妙な色調を持った短髪少女がこちらに向けて手を振っていた。首元にはヘッドホンを回しており、半そでのシャツから延びる健康的な腕は、いかにも活発そうな印象を俺に与える。
 ……ん?
 今俺のいるベランダから下の道で見上げている彼女との距離は大体一戸建ての家の高さほどあるのだが、彼女が俺を見上げているのと同様に、俺が彼女を見下げているのであって、真正面からでは絶対に見ることのできない角度になっているわけで……。
 これは、不幸な俺に神様とやらが与えてくれた幸福なのかな?
 彼女のシャツの隙間から、小さな二つのお山の麓が垣間見える
 ……しばらくは、楽しんでもいいよな?
「見ない顔だな。もしかして君が別の世界から来たって男の子かい?」
 距離のある俺に向かって聞こえるための配慮か、少し張った声を俺に向けて放つ。しかし、俺は静かに楽しんでいたい。俺はうなずくだけにした。
「そうか、だったら私のする行動は一つだな」
 すると、彼女はくるっと半回転してその場所から離れていく。くそ、もう少し見ておきたかった。
 4,5歩したところで、彼女が振り返って言う。
「頼む、そこから動かないでいてくれ」
 え?いや、それってどういうことで……。
 俺が動揺している間にも、彼女は勝手に体操を始める。関節を捻るたびにポキポキと音を立て、少しずつ彼女の体が臨戦態勢へと整っていく。
「な、何を始めるつもりなんだよ」
 俺は同様の中で何とか絞り出した言葉を精一杯彼女に向ける。
 しかし、体操を終えたらしき彼女は、たった一言。
「まあ見ててよ」
 その言葉がまるでスタートの合図化のように、彼女の体が行動を始めた。
 そして、一瞬ですべてが終わった。
 わかることは、ベランダの下にいた彼女が一瞬で俺の隣に移動したこと、そして俺のすぐ横を異常な速さで通り抜けたことくらいだ。当然、彼女がどのような方法で、何をしたのか詳細を把握できるほど目が追いつくことなどなく、俺はまるでハリウッド映画のワンシーンに立ち会ったかのような衝撃を受けた。
「ふう、驚かせたか?」
「驚かせたじゃねえよ!何涼しい顔で平然とそんなところに立っているんだ!」
 なにも俺が彼女に癇癪を切らして叫んでいるわけじゃない。動揺して言葉があふれ出ているだけなのだ。普段なら気持ちの中に留めているわけで、何もそこまで彼女を責める必要など、微塵もないことは明らかだ。そう、明らかなのだ。
「ん?どうしたんだいったい、なぜ君はそこまで慌てているのだ」
「危なかっただろ!真横通り抜けたじゃねえか!」
「ああ、だから先に言ったじゃないか。そこから動くなと」
「もっと言うべきことがあるだろ!」
 ここまで叫んで、ようやく俺は息を切らした。そして彼女は、依然として涼しい顔で俺に微笑んでいる。滅茶苦茶だ。
何が神様が与えた幸運だ。むしろ疫病神だ。
「……何を、したんだ」
「簡単な話だよ。下の道からジャンプしたまでさ。いつもやっていることだから慣れている」
「せ、せめて、もう少し詳細を」
 俺は何か良くないことを声に出してしまったのだろうか。俺の質問に対して、彼女の眼の色が変わった。それはもう、星のように満天の輝きを持たせて。
「そうか、君がそこまで気になるのだったら教えてあげようじゃないか。私がいた道に小さな電撃を与えて軽い爆発を起こすんだ。そしてその衝撃の発生と同時にジャンプを――」
「ち、ちょっと待て」
「なんだ急に、そうも間隔もあけずに質問されてしまうと話が進まないんだが」
 確かにそうだろう。でも、俺には聞き流してはいけないような単語が耳に入った気がするんだ。
「小さな電撃を与えるって、そんなことが可能なのか?」
「可能も何も、私は『電気の創生者(メイカー)』だぞ?」
 め、めめ、メイカー?
「なんだよそれは」
「え、知らないのか?この街の半分以上は占める生き物のことなんだが」
 知らない。全く聞いたことすらない。そもそも人間が自発的に電撃を発生させて、こともあろうか爆発させるなんて。いったいどんな超能力者だ。
 まてよ、そもそも創介にだって似たようなものを持ってたじゃないか。記憶を見ることができる、だったけか?それと鍵を人に刺しても血を出させないのも特殊能力かもしれない。
 ただ、彼女のさっきのセリフで俺がどんな状況に陥っているのかを詳しく把握していないことがはっきりした。少なくとも、俺がこの世界のことをほとんど何も知らないということを彼女は知らない。
 一度、ハッキリさせておくべきだろう。
「あの……」
「ああ!なるほどそういうことか!これはすまなかった」
 彼女が、俺の言葉を全く聞き耳を立てようともせずに、自分の言いたいことを勝手にぶちまけた。
「何がそういうことなんだ?」
 俺の状況を理解してくれたのだろうか。
「自己紹介がまだだったな」
「…………」
 闇雲に期待したのが馬鹿だった。俺は彼女の姿にあの創介の近くにいる黒いカラスを見た。
「私は『輝創雷華(きづくり らいか)』と言う。みんなからは雷華と呼ばれているが、まあ何とでも呼んでくれ。私は自分の名前に断固として誇りを持っているほどお堅い人間じゃない。それと、さっきも言った通り、『電気の創成者』でもある。普段はこうして外をぶらぶら歩いてはいる人いる人と楽しく談笑したり、近所の子供と遊んでやったりしている。夜は私の仕事をしているんだが、まあそれはおいおい説明するとしようじゃないか」
「輝創か、また珍しい苗字だな」
「珍しいというか、まあそんな認識でも間違ってはないか」
 ん?妙な言い回し方だな。
「まあ、その辺はまた今度話すとして、とりあえず君の名前を教えてもらおうじゃないか。なんて名前なんだい?」
 雷華がまたもや目を輝かせて身を乗り出してきた。お前は純粋無垢な子供か。そんな目ができるほどの年齢はとっくに過ぎているはずだろ。
「せ、『瀬野真人』。今はどういうわけか昔のことを思い出すことができない。少し創介の悪ふざけに付き合ったせいで、えらい目にあった。歳は18……」
「え、えー!」
 一瞬の間。雷華の予想外の大声で俺の鼓膜が使い物にならなくなるんじゃないかと思った。
「な、なんだよ急に」
 すると、妙に興奮気味な彼女が声をさらに荒らげて言う。やめろ、それ以上はいけない。
「そ、創介さんと知り合いだっていうのも驚きだけど、ま、まさか18歳!?私と同い年なの!?」
「別に珍しいことじゃないだろ。自分と同い年なんてこんだけ広い世界ならいくらだって……」
 なんて、冷静に、呆れた声を出しつつ落ち着かせようとしたが、むしろ彼女はさらに俺の鼓膜に攻撃を加える。
「ところがどっこい、私と同い年だなんて今まで一度も会ったことがないの!まさかこんな形で同志に巡り合えるとは!」
 同志と言うな。お前と俺じゃどこをどう探したって共通点なんて見つからないだろ。
 呆れてものも言えなくなった俺はそそくさと帰ろうとしたところ、急に手を引っ張られて危うく転びそうになる。
「なんだよ!あぶねえじゃねえ……」
 俺は口がふさがった。あ、いや、そういう意味じゃないくて、目の前の、今の状況に対して呆れずともものが言えなくなってしまった。
 自分の歳を18といった彼女が、俺の片手を両手で覆いつつ、半泣き状態になっているのだ。
 な、なななな、なんだよこの状況は!女だぞ、女の手の感触を味わっているのか!?高校の記憶は無いにせよ、少なくともこんな経験なんてめったにあるもんじゃない。どうせならしばらくこのままで……。いやいや!何言っているんだ。こんなところをもしほかの誰かに見られてみろ。誤解されて罵倒を浴びせられるのは俺のほうだ。
「あの、雷華さん……?」
 俺は彼女の具合を確かめるべく、なるべく低姿勢で、刺激しないように尋ねる。
「ああ、すまない。あまりにも嬉しくてな。つい取り乱してしまった」
 彼女の手が俺から離れる。ぬくもりが残る手に、少しずつさみしさがこみあげてくる。
「ひとまず今日のところはこれで失礼させていただこう。君とはいい友人になれそうだ」
「あ、おい!」
 彼女は俺の呼び止める声に反応することなく、ベランダからひょいと降りて行ってしまった。
 しまった、雷華にはまだ聞きたいことがたくさんあったのに。
「じゃーなー!」
 遠くのほうで雷華が手を振る。本当にうれしそうに手を振る彼女を見ると、また会えそうな気がして心残りも自然となくなってしまった。

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